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【星からきた探偵/宇宙人デカ】後世に影響を与えた古典的ジュヴナイルSF


(偕成社 SF(科学小説)名作シリーズ)
8巻 姿なき宇宙人 ハル・クレメント 野田開作・訳 依光隆・絵 1967年


(岩崎書店 エスエフ世界の名作)
16巻 宇宙人デカ 内田庶・訳 横尾忠則・絵 1967年


(SFこども図書館) 38字×14行×171頁
16巻 星からきた探偵 内田庶・訳 横尾忠則→水田秀穂・絵 1976年
  

(冒険ファンタジー名作選) 21字×15行×2段×164頁
18巻 星からきた探偵 内田庶・訳 山田卓司・絵 2004年

 今回、ハル・クレメント『20億の針』の子ども向け翻訳を2種類読み比べてみました。共に1967年の出版です。当時は子ども向けSFの紹介が盛んだったんですね。
 寄生型というか共生型の宇宙人が登場します。広い宇宙にはこんな知的生命体も存在するのでしょうか?
 この作品については岩崎書店の内田庶さん訳版が普及していて小学校の図書室によく入っていたのではないでしょうか。21世紀に入ってからも復刊しています。よって知名度が高いと思われます。
 岩崎書店のSFシリーズは旧版(エスエフ世界の名作)から新版(SFこども図書館)になった時、改題された巻が複数あります。改題前の方が良かったと思う巻も多くある中、この作品に限っては私は個人的には改題後の方が良いと思います。
 それでこの岩崎書店の内田庶訳版ですが、挿絵が二種類あります。旧版(エスエフ世界の名作)は横尾忠則さんですが、新版(SFこども図書館)では途中から水田秀穂さんの絵に変更されています。私が図書館で借りた1981年3月31日第6刷は水田さんの絵になっています。
 横尾忠則さんは言うまでもなく日本の芸術界の大御所です。水田秀穂さんはネット上にはあまり情報がないのですが、『エスパー島物語(超人の島)』https://sfklubo.net/odd_john/
の挿絵も描かれていて、この頃はなかなか尖がった作風のように思います。その後はエレガントで高級感のある作風に変化したようです。塩野七生なんかの作品の挿絵も描かれたようだし。
 何で挿絵が横尾さんから水田さんに変更になったのか事情は分かりませんが、横尾さんも水田さんを認めていて、水田なら納得するわ、という経緯があったのならいいですね。

 
20億の針【新訳版】 (創元SF文庫) - ハル・クレメント, 鍛治 靖子  20億の針【新訳版】 (創元SF文庫) – ハル・クレメント, 鍛治 靖子
 本当は完訳版も読み比べてみたいところなのです。ところが2025年7月5日に太平洋で大地震が発生するという予言があります。もしそれが本当だと私は海辺のUR住宅に住んでいるので津波で流されてしまうでしょう。ということで、マイナス思考ならぬ最悪思考で考えられる最悪の事態を想定してしまう私は1999年の7の月や2012年12月23日に何もなかったのにも懲りずに今回もまた2025年7月5日を人生最後の日と想定してその日に向かって人生のラストスパートをかけています。完訳版を読めば半月はかかるので、もはや質より量ということで、読みたかったのに読めなかった子ども向けSFやミステリーのシリーズをできるだけ読むことにしました。もし私のHPやブログの更新が止まれば、津波に流されたと思って下さい。

       

 それで内田(岩崎書店)版と野田(偕成社)版の違いですが、どちらもストーリーの大きな違いはありません。子ども向け翻訳では時々原作から大きく改変されることがありまして、そんなところを読み比べるのが面白いのですが、今回に限ってはそうではなさそうです。しかしストーリーの過程において、小さな部分に違いがあり、その辺に訳者の創意工夫が見られて興味深いものがあります。
 
 まず内田版では、宇宙人の探偵に「デカ」、犯罪者に「ホシ」という名前が付けられています。ところが野田版ではそういう名前はなく、「探偵」「犯人」と呼ばれています。
 名前というかあだ名を付けるのは親しみがわいていいですね。

 細かなストーリーを読み比べれば、さすがに字数の多い野田版の方が詳しい。
 内田版では結構簡単に犯人を発見して解決しますが、野田版ではロバートが友人達を疑って疑心暗鬼になり、調査してシロが判明するという過程が描かれています。ここら辺、ミステリー小説の犯人捜査を思わせます。

 登場人物については、やはり字数の多い野田(偕成社)版の方が多く登場しています。

【主要登場人物(主人公の友人グループ)】

(内田(岩崎書店)版)5人のグループ
ボブ……主人公
赤毛のライス
ノーマン……サンゴ礁を利用して生け簀を作った
ヒュー……身体が小さい……ボートの床板を壊した
ケニス……ノッポだが「ちびのケニス」と呼ばれている
 ホシの宇宙船のラジエーターを発見した

(野田(偕成社)版)6人のグループ

ロバート……主人公
赤毛のケネディ……宇宙船の操縦席のカバーを発見し、取ろうとして溺れる
のっぽのマルム
わんぱくコルビー
チャーリー……家出しようとして失敗した
ちびのノーマン……チャーリーの子分

 人数も名前も違っています。それでも違和感なくお話が成立しているのは訳者の腕でしょう。原作も読み比べるともっと面白いと思います。
 主人公の呼び名が違うのは、「ロバート」を「ボブ」とあだ名で呼ぶからでしょう。

 さて、内田(岩崎書店)版については普及しているのでもはや屋上屋を架すかのような言及は不要ですが、野田(偕成社)版について少々紹介したいと思います。
 野田開作さんは、コナン・ドイル作品も多く訳していて、シャーロッキアンの方にはよく知られた存在です。原作を改変することも多いので「野田改作」と呼ばれる向きもあるようです。
 当HPでも野田さんが訳された作品を幾つか紹介してきました(ブログからリンクしておきます)。確かに原作を改変することもありますが、スピード感あふれる読みやすい文章で、なかなかの名文家だと思います。特に会話の文体が生き生きとしています。しかし今読むと笑える古い言い回しも時々入っています。

「ああ、ぼく、ゆかいになってきた。宇宙船にのって探検にでかけるように、もりもりファイトがわいてきたよ。」

 生きたセリフですが、さすがに今では「もりもりファイト」なんて言いませんね。

 また、島でたった一人の医師・シーバー先生というのが登場して、ロバートの調査を結果的にフォローしてくれたりします。

「わしは、内科でも外科でもない。小児科でもない。百科じゃよ。わっはっは。」

というセリフがあります。多分これは野田先生のアドリブではないでしょうか。アドリブで適切なセリフを入れています。

 こういった子ども向けSFの翻訳には二種類あって、一つは大人向けSFを子ども向けに翻訳したものと、もう一つは最初から子ども向けに描かれた作品を翻訳したものです。
 本作品は大人向けに描かれた作品なのか、最初から子ども向けに描かれた作品なのでしょうか?
 登場人物が子どもばかりなので、最初から子ども向けに描かれているのではないでしょうか?ミステリー部分も簡単に解決したし。
 それでいて現代に至るまで多くの作品に影響を与えている古典的名作です。
 ハル・クレメントの他の作品も読みたくなってきます。

……ということで、非常に面白い読書体験でした。完訳版を読めないのは残念です。もし7月5日に何事もなく生き延びることができたなら、いずれ完訳版にも挑戦したいと思います。それでは、皆様にとっても無事な未来をお祈りします。コメントお待ちしております。
(2025年1月25日)

(なお、一部の表紙画像は古書 転蓬 古本斑猫軒 読書メーター 各サイト様から拝借しました)

      

        

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