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【わたしってだれ?】分かってからするべきことは?佐野美津男さん毎度の問題作!!


わたしってだれ? きおくをなくした少女
佐野美津男(作) 山口みねやす(絵)
TBSブリタニカ 小学中級文庫3 1981年8月25日初版
 
★ ☆ ★ ☆ あらすじ ★ ☆ ★ ☆彡
 主人公のセシエは駅の待合室で発見されました。記憶を全部なくして一人でいたのです。
 セシエは児童相談書から精神病院を紹介され、そこでオギノ先生から記憶を取り戻す治療を受けています。
 セシエがニュースで紹介されると、親を名乗る夫婦がたくさん現れて取り合いになりました!
 そしてそれはついに、誘拐騒動に発展するのです!
 オギノ先生に連れられて病院に戻る時、駅の向かいのホームでメグちゃんを見つけたセシエは、記憶をどんどん取り戻していきます!な……、なんだってえ~~~~~~!
 駅を降りて記憶を辿ってどんどん歩いていくと、オギノ先生が前で通せんぼをします。
「待ちなさい。これはおかしい。どうもおかしい」
 さて、思い出した記憶は果たして正しいのでしょうか?そしてセシエはどう行動するのでしょうか……!?
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆彡 

 本作の主人公は記憶喪失の少女です。
 私なんか粘着質で執念深い性格なので、嫌なことは決して忘れません。だからうつ病になって治療に失敗して人生を失敗したようなものです。今でもあらゆる場面でふとしたことから中学・高校・それ以降の時代の嫌な思い出がフラッシュバックしてしばらくフリーズしてしまいます。

「じぶんが、じぶんでなくなるということは、いったいぜんたい、どういうことなのか、
 あなたにも考えてもらいたくて、わたしはこういう物語をつくりました。」

と佐野美津男さんは「はじめに」で書かれています。
 しかしどういう意図だったのか、よく分かりません。毎度のことながら佐野美津男さんの小説は難しいですね。皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
 
 セシエがニュースになって、親だと名乗る夫婦が次々に現れます。最初に四組現れ、次に二組現れ、最後の一組がセシエを誘拐します。
 しかしこれだけの夫婦が子どもを探しているんですね。逆に言うと、それだけ行方不明になった子どもがいるということです。物語に描かれていない大勢のセシエがいるのです。彼女らはどこでどうしているのでしょうか?
 
 そして、駅でメグちゃんを見て記憶がよみがえって来ます!駅を降りてどんどん道筋を辿っていくと、オギノ先生が止めるのです。
「待ちなさい。これはおかしい。どうもおかしい」
 記憶が戻るのはいいことではないでしょうか。とりあえず、行けるところまで行って確かめるのがいいのではないでしょうか。
 ところがオギノ先生は一旦探索を止めて喫茶店でよく話し合いをしようとします。
 ここが佐野美津男さんの強調したかった点なのでしょう。

「メグちゃんにあえば、なにかがわかると思ったからだ。
 なのに、きみは、メグちゃんをみつけだす前に、なにかを思い出してしまった。
 そのなにかは、メグちゃんではなくて、きみに関係のあることらしい」
「もしかしたら」
「メグちゃんというのは、きみのことではないだろうか」

 
 とりあえずメグちゃんがセシエ本人であるかセシエの友人なのかは今は優先事項ではないのではないでしょうか。とにかく先に記憶を確認すれば分かることではないでしょうか。
 そして、一気に記憶がよみがえります。
 
 セシエとカナイメグミ(メグちゃん)は同じ日に同じ病院で産まれたのですが、病院の間違いで取り違えられたのです。

 6歳の時に取り違えが判明しました。しかし双方の話し合いの結果、今まで通り育てて家族同士付き合うことになりました。
 しばらくそれでうまくいっていたのですが、やがて双方の年寄り達が血のつながりをやかましく言い出し、やっぱり本当の親子関係に戻るかどうか問題になってきました。セシエは色々と考え、悩み、

「ふたごのようになかのよい友だちのために、じぶんをなくそうと、心のおくのほうで決めたのでした」
 
というのが思い出したことのようです。
 しかし、ほんとにそれでいいのですか?
 それで、これからどうするのですか?

「きみは、きおくを、とりもどさないほうが、よかったのかもしれない。そして、メグちゃんも幸福だったのかもしれない」

「わたしはもう一ど、きおくをなくしてしまったほうがよいのでしょうか。」

「とにかく、ひとまずは病院にかえろう。そして、よく考えるんだ。セシエ、きみには、考える力があるのだから」

……と、これで終わりです。その後どうなるのでしょうか。どうすればいいのでしょうか。それは読者の想像にお任せしますということなのでしょう。
 佐野美津男さんの物語はこんな風なのが多いですね。難しい。読者が続きを考えなければならないのです。
 さて、どう考えましょうか。

 まず、オギノ先生が
「待ちなさい。これはおかしい。どうもおかしい」
と止めたのはひとまず良かったのかと思います。最後まで読んで確かにそう思いました。世の中には大人の事情というものがあるのです。よく分からないまま闇雲に突撃すると、かえって都合が悪い場合も考えられます。例えば、犯罪に関係していたとか、その他色々な事情で都合が悪いケースです。
 そもそも何か心に大きなショックを受けたから記憶をなくしたのです。だからよく分からないまま突撃するのはまずいでしょう。
 しかし、喫茶店で落ち着いて話し合った結果、記憶を取り戻すことができたのです。
 事情は分かりました。さあどうしましょうか。

 
 ここからは私が思うところを述べさせて頂きます。
 この問題は、セシエ一人が記憶をなくすことで良しとしていい問題ではありません。
 双方の家の方々が全員で話し合って考えることではないでしょうか。
 
「きみは、きおくを、とりもどさないほうが、よかったのかもしれない。そして、メグちゃんも幸福だったのかもしれない」
「わたしはもう一ど、きおくをなくしてしまったほうがよいのでしょうか。」

 絶対それは間違いです。セシエ一人に押し付ける問題ではありません。
 そもそも他の関係者はこの問題についてどう考えているのでしょうか。
 セシエのことはニュースになって色々な夫婦がやって来たようですが、どうやら本当の産みの親や育ての親が来た形跡はありません。


「あっ、メグちゃんだ。メグちゃん」
 わたしの声に、メグちゃんは、ふりむきかけたような気がします。それでも電車のドアがしまりだしたので、メグちゃんはそのまま電車に乗りこんでしまいました。

……と、メグちゃんも何だか冷たいようです。本当に行方不明のセシエを気にかけていたら電車のことは関係なく振り向くはずです。
 何だかセシエは大問題を一人で深刻に考えて一人で責任を負わされているような気がするのです。

 私は、セシエが病院に帰ってよく考えた後、やるべきことはやはり双方の家族と話し合うことだと思うのです。
 その辺、オギノ先生の言ってることはミスリードのような気がします。
 
 そういえば昔の探偵小説では、犯人が無実の被害者を精神病院に押し込めるようなシーンがよくありました。
 実はセシエも記憶を消されていて、オギノ先生は記憶を取り戻さないように見張っていた悪人だった……?これは昔の探偵小説の読み過ぎでしょうか?

少年少女・ネタバレsalono(ネタバレ注意!)
 江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間 空気読まないネタバレ検討会
  https://sfklubo.blog.jp/archives/12884383.html
 ↑主人公は記憶を消されて精神病院に入れられています。

華麗なる探偵たち(第九号棟シリーズ) 赤川次郎
  https://diletanto.hateblo.jp/entry/20180627/p1
 ↑主人公は精神病院に入れられています。

 もしくは、実はセシエは双方の家族から邪魔者扱いされていて、本当に記憶を取り戻さない方が良かったとか?これは悲観的過ぎる邪推でしょうか?
 ロールシャッハテストというものがありますが、私のように悲観的でマイナス思考の者が読むとどんどん悪い方へ想像が行ってしまいます。佐野美津男さんの物語はそういうようなところがあります。

……ということで、皆さんはどう思われますか。ご意見ご感想お待ちしております。
  
  
  
佐野美津男のふしぎな世界
 
犬の学校
  http://sfclub.sakura.ne.jp/kokudosha04.htm
だけどぼくは海を見た
  http://sfclub.sakura.ne.jp/kokudosha17.htm
ピカピカのぎろちょん
  http://sfclub.sakura.ne.jp/sano01.htm
原猫のブルース
  http://sfclub.sakura.ne.jp/sano02.htm

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