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敵中横断六千粁!皇帝の密使ミシェル・ストロゴフ

【あらすじ】
 ロシアに恨みを抱くオガレフ将軍の陰謀により、タタール人が反乱を起こした!
 ロシアは寸断され、皇帝の弟の大公殿下はイルクーツクで孤立。
 ロシア皇帝は大公殿下に密書を渡すため、ストロゴフを密使に任命。
 タタール人が支配する広大なロシアの広野をストロゴフは急ぐ!!

【感想:ヴェルヌが描いたロシアの民族紛争】
 ハラハラドキドキの大冒険物語ですが、今読むと色々問題ありそう。
 独立運動を弾圧する物語のように見えてしまいます。
 特定の民族を残虐非道の民として描いているので、民族差別と言われかねません。
 タタール(韃靼)の描かれ様はひどいですね。
 ジプシーの人もタタールに追随するスパイとして描かれています。
(※ジプシーという言葉は最近は差別的ということで忌避されることが多いようです。かと言ってジプシー=ロマと言い換えられるものでもないようです。よってこの項目では本の記述通り、ジプシーと記述させて頂きます)

 本作品においてヴェルヌの視点は、独立運動をしている辺縁の民族ではなく、覇権主義の帝国の目線に立っています。
 アメリカ開拓時代にアメリカ原住民が悪役として描かれていたのと相似形です。
 ヴェルヌは色々な作品で諸外国の人物を主人公として描いていますが、ロシアには好意的のようです。
 ロシアといえばナポレオンの敵として立ちはだかった国ですが、ヴェルヌ執筆当時、フランスとロシアは友好関係にあったのでしょうか。
 一方、ヴェルヌは未開の民族に対して偏見があったのでしょうか。悪役としてひどい描かれ様です。
 その一方、コサックはロシアに味方しているように描かれています。
 コサックだとかタタール(韃靼)だとか、この辺の民族事情について複雑な事情がありそうです。
 ヴェルヌとしては、文明化は良いことだという考えがあったのでしょうか。

 しかしあの広大なロシアの地をモスクワからイルクーツクまで。
 途中までは列車と馬車で、以降は徒歩で。
 80日間で世界一周したフィリアス・フォッグ氏は乗り物を駆使していましたが、ストロゴフはもっと過酷な道中です。人間離れした超人の活躍です。

 今回、図書館で借りられる4種類の版を読み比べてみました。


皇帝の密使 偕成社名作冒険全集40
野田開作・訳 西村保史郎・絵
1958年
40字×15行×1段×195ページ=117000字
(なお、画像はオークファンに残っていたヤフオクのキャッシュ画像です)


皇帝の密使 小学館国際版少年少女世界文学全集21
原田和夫・訳 宮敏彦・文 ジャン二・絵
1978年
27字×22行×2段×164ページ=194832字


皇帝の密使 集英社ヴェルヌ全集4
新庄嘉章・訳 滝瀬弘・絵
1967年
26字×22行×2段×314ページ=359216字
(なお、画像はアガサーチ様から拝借致しました)


皇帝の密使ミハイル・ストロゴフ パシフィカ
江口清・訳 真鍋博・装幀
1979年
25字×22行×2段×313ページ=344300字

 理論上の文字数も計算しましたが、もちろん行送りによって少なくなります。
 特に児童書は挿絵が多いのでかなり減ります。
 集英社ヴェルヌ全集は少ないのですが挿絵があります。
 真鍋博表紙のパシフィカ版は挿絵がありません。

 集英社ヴェルヌ全集版とパシフィカ版は完訳のようです。
 訳者が違うので表現は違うのですが、内容はほぼ同じです。
 児童書版はそれらに比べて文字数が圧倒的に少ないのですが、大きな改変や省略はなく、ほぼ原作の流れを把握しているのはさすがです。
 ただ、野田開作版では最後の戦闘シーンがダイナミックに改変されています。
 悪党オガレフはボリショイ門を開いてタタール軍を侵入させるつもりでしたがストロゴフに成敗されて失敗します。
 原作では門は閉じたままだったのですが、野田版では戦上手な大公殿下が
「こんどは、ぎゃくに、てきをだましてやろう。」
と兵士を集めてわざと門を開け、騙されたタタール兵が入って来て全滅することになります。
『三国志』に親しんだ日本人にとって、野田版の展開の方が親しみやすいですね。

 また、ストロゴフとナージャが友人となったピガソフと共にタタールに捕らわれの身となっている際、タタール兵がナージャに何かしたために怒ったピガソフがタタール兵を殺したためにピガソフも虐殺されるという事件が発生します。
 そのきっかけとなった事件について読み比べてみます。

(小学館版)
「そのひとりがいきなりナージャにだきついて、キスをしようとした。」

(新庄版)
「このとき、ひとりの兵士に侮辱された。」

(江口版)
「そのとき彼らの一人によって陵辱された。」

(野田版)
(ナージャに対する記述なし。その前段のストロゴフに対する虐待に対してキレて二、三人撃ち殺したことになっている)

 侮辱と陵辱では受ける印象が全く違います。
 また、原作では一人殺害しただけですが、野田版では2,3人殺したことになっています。

 あと、ジプシーのスパイ・サンガールの最後について、江口版では記述はありませんが新庄版ではあります。

「これらの遺棄死体の中に、ジプシー女サンガールの死体もあった。」

 フランス人ヴェルヌが描いたロシアの固有名詞を日本語に訳すに当たり、色々なバリエーションがあるようです。そもそも主人公の名がミシェルとなったりミハイルとなったりしています。
 敵役の民族名も小学館版ではタタールとなっていますが他の版では「韃靼」となっています。
 小学館版ではボリショイ門ですが、他の版では「ボルチャイア門」「ボリシャヤ門」となっています。
 現在ではバレエとか劇場とかプロレスラーの影響で「ボリショイ」という表記が定着していますが、昔は他の表記があったのですね。
 固有名詞の記述の違いを細かく見比べてみたいとも思うのですが、もはや本の返却期限も過ぎているので時間がありません。

 パシフィカ版では巻末に
巻末エッセイ 寄木細工(モザイク) レイモン・べルール 調佳智雄・訳 が4ページ
訳者あとがき が3ページ
収録されています。
 巻末エッセイについては、何を書いてるのかさっぱり分かりません。一文が非常に長くて読点まで長々と続きます。訳の問題でしょうか。
 訳者あとがきで江口さんは、本作品はヴェルヌがロシアの東方政策に関心を持って執筆したと書かれています。つまり当時ロシアは東方民族を支配しようとしていたのです。
 本作品は『皇帝の密使ミハイル・ストロゴフ』というタイトルで雑誌連載されたが、単行本化の際には露仏間の外交関係を考慮して『ミハイル・ストロゴフ』に改題されたそうです。
 ヴェルヌ作品は露仏外交に影響するほどだったのですね。

 集英社の新庄訳版には巻末に訳者あとがき3ページとヴェルヌの生涯についての記述「ジュール・ヴェルヌについて」4ページが収録されています。
 新庄さんが集英社の編集部から翻訳の話が来た時にこの作品を選んだのは、無声映画時代の映画が良かったからだと書かれています。
 主演の俳優イワン・モジューヒンのファンだったと書かれています。
 調べてみると、1926年『大帝の密使』のことのようです。


↑小学館版は迫力あるオールカラーの挿絵が豪華。


↑偕成社版はカラー絵も多数収録されています。(西村保史郎・絵)


↑集英社ヴェルヌ全集版の挿絵。
 ヴェルヌ作品の原書にはこんな感じの挿絵が収録されていますが、本書の挿絵は日本人によります。(滝瀬弘・絵)


↑集英社ヴェルヌ全集収録の地図。「敵中横断6000キロ」のフレーズが。
 なお、『敵中横断三百里』は山中峯太郎の作品。


↑パブリカ版巻頭に収録の地図。
「敵中突破6千キロ」のフレーズが。


↑偕成社版に収録の地図。
「モスクワからイルクーツクまでの5400キロ」となっています。

 

亀山節炸裂!『皇帝の密使』岩崎書店ベルヌ冒険名作選集版   

   https://sfklubo.net/kameyamabusi/

 

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