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シオドマク【人工頭脳の怪】キミは三大脳トラウマトンデモSFを知っているか!?


  人工頭脳の怪・ノバ爆発の恐怖 (昭和40年) (少年少女世界推理文学全集〈19〉)
少年少女世界推理文学全集 No 19 1965年
 人工頭脳の怪・ノバ爆発の恐怖 内田庶・訳 松下勲・絵 あかね書房
  23字×18行×2段×84P=69,552

★ ☆ ★ ☆ あらすじ ★ ☆ ★ ☆彡
 若き野心家の医師・パトリックは猿の脳を取り出して生きながらえさせる研究に励んでいました!
 そしてその研究は順調に進んでいたのです!
 そんなある日、近くに自家用飛行機が墜落しました!ついにパトリックに人間の脳を使うチャンスがやって来たのです!!
 彼は誘惑に負け、ついに脳を取り出して生存させます!
 それは大富豪ドノバン氏の脳でした!!
 科学の勝利に酔った日々もつかの間、やがてパトリックはドノバン氏の脳に支配され、異常な言動を呈することになります!
 心配する妹のジャニースや友人のシュトラット博士は危険な実験をやめさせてパトリックを救おうとします!
 しかしドノバンは強欲でした!逆らう者は抹殺です!やがてドノバンはジャニースやシュトラット博士までも殺そうとするのでした!ジャニース危うし!
 パトリックの折角の研究も制御を失って間違った道に迷い込んだのです!ドノバンの脳の暴走はまさしく科学の暴走なのです!
 果たして人類は暴走する科学の前に敗北するのでありましょうか?!!!
(1943年アメリカ)
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆彡 

 
 20世紀後半に少年少女時代を送った我々にとって脳のSFといえば思い出すトラウマ作品がありますね。
 
合成人間ビルケ(合成人間)(1925年ロシア)
  http://sfclub.sakura.ne.jp/iwasaki18.htm

合成怪物(合成脳のはんらん)(1950年アメリカ)
  http://sfclub.sakura.ne.jp/iwasaki25.htm
 
 ところがもう一つ、脳を取り出す作品が埋もれていたんですね!三つ合わせて三大脳SFだ。
 当時としては魅力あるテーマだったのでしょうね。
 『合成人間』(1967年)の馬上義太郎さんの解説は、やがて本書で描かれたようなことが実現するかもしれません、という論調で書かれています。
 しかし科学が発展するにつれ、そんなに簡単にはいかないぞということが分かってきたのだと思います。
 現在の視点から見ると脳を取り出して生かす研究はグロいだとかトンデモだと思うのですが、しかし上に挙げたSFでも、否定的に描かれています。決して科学の勝利だ、人類の進化だ、バラ色の未来の到来だ!という論調では描かれていません。
 そういう観点から考えると、SFは単純に科学の進歩を賛美するのではなく、科学の悪用に警告を発していたんですね。
 本作品は、脳を取り出して精神感応するとどうなるか?というもしもの枠組みが設定されています。
 取り出した脳が悪人だったために悪の心に支配されて大変だ……というストーリーになりました。
 これが逆に、事件か何かの被害者の脳を取り出して協力して犯人を見つけ出す……というストーリーになっていたら、もっとエンタメ寄りになっていたかもしれません。
 脳探偵などと、新たなSFミステリーシリーズが誕生していたかもしれないのです。
 しかし、そうなれば、どうしても脳取り出しが肯定的になってしまいます。著者としては行き過ぎた科学に警告する意図があり、そのためには脳取り出し実験を否定的に描く必要があったのではないでしょうか。
 本書の解説で内田庶さんはシオドマクについて書いています。ドイツ出身ですがナチス支配を嫌ってアメリカに亡命された方だそうです。
 そのため、自由と人間性を尊び、機械や科学に人間が支配されることを憎んだと書かれています。
 そのような背景があるのであれば、脳の取り出し実験を否定的に描いたことも納得できます。
 
ノバ爆発の恐怖』を読むために本書を借り、ついでに同時収録の本作品も読んでみました。
 私もこんな素敵な作品を読み逃していたんですね。今更ながら読めて良かった。
 本作品の完訳版は入手困難なようで、図書館にもないしネット上ではプレミアがついています。

ドノヴァンの脳髄 (ハヤカワ・SF・シリーズ (3002))
ドノヴァンの脳髄 (1957年) (ハヤカワ・ファンタジイ)
 
 そのため今回、完訳版を読めずに内田庶のアブリッジ版のみを読んでみました。
 
脳人間 呪われた怪実験 (SF恐怖シリーズ)
  (大伴昌司・訳 1975年、秋田書店、SF恐怖シリーズ)

という版もあるようです。
 いずれ完訳版と共に読んでみたいですね。

 あと、ウィキペディアによると、学習雑誌の別冊付録となったこともあるみたい。
 
人工頭脳の怪(1960年、中学一年コース1960年7月号) 訳:内田庶
ドノバン氏の脳(1962年、旺文社、中一文庫(9)、中学時代1年生12月号第4付録) 文:亀山竜樹

 
 当時の中学生向けの学習雑誌は充実していたんですね。古き良き時代だ。

 ネットで検索すると、原作ではパトリックとジャニースは夫婦のようです。
 内田庶さんは『ノバ爆発の恐怖』でも主人公カップルを結婚させずに兄と妹にしてしまいました。
 内田さんは結婚することをタブー視しているのでしょうか。

 蛇足ですが。タイトルについて。
『人工頭脳』というと、一から制作した脳というイメージがあります。
 本作品の脳は人間から取り出して人為的に生かしているものだから、ちょっとこのタイトルとは違うように思うのですがどうでしょうか?

   

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