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宇宙探検草創期のゴードン・ピムの物語【異星人ノーチラス/太陽系ようさい】ドレツァール

(岩崎書店 エスエフ世界の名作)
11巻  太陽系ようさい ドレツァール作 松谷健二・訳 風間史朗・絵 1967年

(SFこども図書館)
11巻 異星人ノーチラス ドレツァール作 松谷健二・訳 風間史朗・絵 1976年

【あらすじ】
 宇宙開発が可能となった未来。人類は月と火星と金星に住んでいた。しかし最高委員会は土星の軌道より外側の開発を禁じていた。
 土星の前進基地に勤務する三名の青年学者達はフェドロフ隊長からその理由を聞かされる。
 数十年前、宇宙探検に出かけた宇宙船ヘルメス号が原因不明の事故で遭難した。その後ハーシェル号とベッセル号が宇宙探検に出かけたところ、謎の宇宙船から警告を受けて引き返してきた。それ以来地球人は土星の軌道内を太陽系要塞として守ってきたのである!
 土星基地に視察に現れたペール・ミュリウス提督一行の一員である天才的電波天文学者・グラーム氏がカシオペア座の方向から発信されている謎の電波信号をとらえた!
 グラーム氏を含めて5人と犬1匹による調査隊が結成された。ステュクス号出発!
 しかしその探検は想像を絶するものになるのであった……!!!

【感想:宇宙探検草創期のゴードン・ピムの物語
     全てが説明できるとは限らない】
   
SFこども図書館の目録で原作者の名前を見ていると、アシモフやハインラインといったお馴染みの名前が並んでいます。まあ英米系の方の名前は知らなくても何となく分かります。ベリヤーエフやグレーウィッチといったロシア系の名前は馴染みがなく特徴ありますね。そしてドレツァールという見慣れない名前がありました。不思議に思って借りることにしました。
 巻末の解説によると、オーストリアの方のようです。
 オーストリアというと神聖ローマ帝国やハプスブルク帝国が存在した地であり、音楽の都ウィーンが首都であります。
 言語はドイツ語が基本のようですが、標準ドイツ語ではなく少し違うようです。
 ともかく日本にいると英米のSFはよく目にするのですが、ドイツ系のSFは珍しいですね。
 この岩崎書店のジュブナイルSFシリーズにロシアやドイツのSFも含まれているのはいいことだと思います。
 

 そういうことで、珍しいオーストリアのSF作品なのですが、まず主人公グループの名前が難しい。

トール・ギュルビィ……電波天文学者
バート・フリットン……光学天文学者
ゲルト・ビィティヒ……環境工学のエンジニア
 
 世界には色々な名前の人がいるものです。

 
 そんなこんなで宇宙探検。宇宙探検といえば未知の世界・未来の時間軸がテーマとなることが多いイメージです。
 ところが本作品では、数十年前に謎のファーストコンタクトがあったという設定になっていて、その過去の出来事の謎というのも重要なテーマとなっています。
 そして謎の天才電波天文学者のグラーム氏の正体が、そのファーストコンタクトに遭遇したヘルメス号の航法士ゴードン・ピムだったと判明!!
 謎に続く謎で、よく分からないまま物語は強引に進んでいきます。
 ヘルメス号の生存者が宇宙船を製造して探検中だということが判明し、その救出に向かう途中でも白色矮星に捕まりそうになったり反物質との遭遇をビデオ解析したりと科学的な小ネタをぶち込んで来ます。
 著者ドレツァールは放送局で科学番組の企画を立てたりオーストリア宇宙科学協会の事務長を務めたりしていたそうで、科学的な啓蒙内容が含まれています。本格的なサイエンス・フィクションなのです。
 
 ゴードン・ピム氏によると、彼らを捕まえた宇宙人は水中に住むイカ型宇宙人のようです。
 ウェルズはタコのような火星人を造形しましたが、こちらはイカ型です。
 そしてこの宇宙人は、ギュルビィ隊長によって【ノーチラス(フネダコ)人】と名付けられたのでした。

    

「ノーチラス」と言えばジュール・ヴェルヌの「ノーチラス号」を思い出すのですが、それとは関係なく別個の独立したネーミングです。
「フネダコ」について検索すると、あまり良く分かっていない謎の多い生物のようです。タコと同じ仲間でタコのように8本の足があるようです(ノーチラス人は触手が4本あるという設定)。

 最後に探検隊はヘルメス号の生存者を救出し、ノーチラス人と遭遇して彼らと話し合うのだと思って読んでいたのですが、それはなく中途半端な感じで終わりました。
 一体ノーチラス人の目的は何だったのでしょうか。
 しかし、現実の世界では何もかも説明がつくということは限りませんね。小説の中では説明がついて納得できると「伏線が回収された」と喝采されるわけですが、現実の世界はそんなもんではありません。
 ノーチラス号と人類はまだ交流する段階ではないのかも知れず、あえてノーチラス人は人類との遭遇を避けているのかもしれません。
 一見唐突で説明不足のように思える結末ですが、深い意味があるのかもしれませんね。この結末について考え・話し合うのも面白いと思います。

 そして本作で重要な役割をする人物としてゴードン・ピム氏が登場しますが、これはエドガー・アラン・ポーの作品の主人公と同じ名前です。
 後にジュール・ヴェルヌがその続編の小説『氷のスフィンクス』を描いています。
 このネーミングはポーやヴェルヌを意識したものなのでしょうか?

  

 なお、本書の挿絵は風間史朗という方が描いています。
 なかなか面白いタッチの絵であります。
 人物の頭にアンテナみたいなのが立っていますが、これは宇宙帽の付属物のようです。
 宇宙帽をかぶっていない時はアンテナは立っていません。
 風間史朗氏については現在検索してもよく分かりません。
 しかしSFこども図書館シリーズにおいては柳原良平さん

柳原良平のえすえふ絵物語【黒い宇宙船】


や久里洋二さん

【超能力部隊】ハインライン『深淵』を子ども向けに紹介!当時の日本の児童向けSFはすごかった!!!


の画風に通じるインパクトがあると思います。楢喜八さんの画風にも似ていませんか?
(さすがに横尾忠則さんや水田秀穂

超人類の超人類による超人類のための島【エスパー島物語(超人の島)】


さんとは画風が違うように思います。)
(20250216)

(なお、アイキャッチ画像は トムズボックス様 より拝借致しました)

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