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宇宙戦争を防げ!手段はボロロボットと禅!?今日泊亜蘭【アンドロボット’99】


 
  アンドロボット’99 (ソノラマ文庫 68)
 
今日泊亜蘭【アンドロボット’99】
 金の星社少年少女21世紀のSF6
  1969年 1979年 武部本一郎・絵
 ソノラマ文庫 1977年 江口まひろ・絵
※なお、アイキャッチ画像の単行本旧版表紙画像は アットワンダー様
 単行本新版表紙画像は まんだらけ通信販売様 から拝借しました。

★ ☆ ★ ☆ あらすじ ★ ☆ ★ ☆彡
 時は1999年9月!人類の宇宙開発は進み、月や火星に人類の居住区を建設するまでになっていました!
 しかし火星の都市連合は地球からの干渉を嫌って独立の機運が高まっており、地球と火星の関係の緊張は限界に達していたのです!
 そのような社会情勢のもと、主人公の千葉ミキ夫(中学3年生)達ロボット部員はロボットの設計・製造に励んでいるのでした!
 ところが何の奇跡か偶然か、完成したロボ助は転校生・阿里佐ノノの脳波に思念同調して動き出したのです!!
 思念同調回路の開発を調査していた火星連合の諜報員モリ・ディノ・ユウスケは研究追究のために阿里佐ノノを誘拐するのであった!
 おのれ卑怯なり火星連合!
 そうはさせじとミキ夫達ロボット部員とロボ助は阿里佐ノノの救出に向かいます!果たして彼らは阿里佐ノノに再会し、救出することができるのでしょうか!
 そして、火星連合と地球との関係はどうなるのでしょうか!!1999年9の月に始まる地球存続の危機!!果たして宇宙戦争は勃発するのでしょうか!!そして人類は無事に西暦2000年を迎えることができるのでありましょうか!!!
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆彡 
 
 もう20年たちますか。当HP作成初期の頃に読んだのですが内容はすっかり忘れていたので再読することにしました。
 作者の今日泊亜蘭さんは1910(明治43)年生まれのSF界の長老です。
 ウィキペディアにも「日本SF界の最長老として知られた」と書かれています。
 単行本版が発行された1969年は59歳。というと執筆は還暦前ということですか。
 50を過ぎて還暦を前にしてこんな作品を描くとはなかなか発想がお若い。
 しかし文体的には講談風というか少々レトロ風味。いかにも敗戦直後の少年マンガを思わせる飄々としたユーモアを感じさせる文体です。あまりよく知らないのですが、前谷惟光の『ロボット三等兵』を思わせます。私なんか登場するアンドロボット・ロボ助の脳内イメージはロボット三等兵で読んでました。

 ロボット三等兵
 
 月や火星に人類が住む未来の話なのですが、登場するメカニックや兵器はアナログ調で牧歌的。巨大な竹とんぼかタケコプターのような兵器に子ども達が乗って火星独立運動の武装隊と戦うんですから、まさに少年マンガの世界。

     
 
 物語の構造も分かりやすいですね。登場人物の話すセリフが説明調なので行動の理由が良く分かります。
 今日泊亜蘭先生の文化的背景には講談や落語の世界があるのでしょうか。分かりやすくて読みやすいです。
(けなしているのではありません。良い意味として評価しているのですよ。)
 そして本作品はあくまでも子ども達が主人公で子ども達が活躍するジュヴナイル作品です。
 火星の都市連合の独立運動との対立で宇宙戦争勃発の危機にあるというのに、地球政府の大人達は登場しません。
 大活躍して宇宙戦争の危機を救ったのは中学生の千葉ミキ夫達や彼らが作ったボロロボットのロボ助なのです。
 私も子ども時代にはこの手の物語をよく読んだもので、子どもでも世界を変えることはできるのだと本気で思っていました。
 しかし社会に出て色々な失敗をして、社会の仕組みとはそんな簡単なものではないと学びました。
 一つの小さな会社でも今までの慣例を変えることは並大抵のものではないのです。
 それぞれの部署に担当者がいて役職者がいて、最後に社長や理事長という存在がいるのです。
 何か一つ仕組みを変えようとしても担当者や最終決定者の了承がないと何もできないのです。
 閑話休題。本作品に戻ります。宇宙戦争の危機!この危機を前にして禅の奥儀に達したと言われている名僧・鎌倉円覚寺管長の昌山禅師はロボ助に秘策を授けて月に送り出します。
 大人になってからようやく社会の仕組みを思い知ってしまった私としては、おいおいそんな大事なこと勝手に決めて行動していいんかい、上司の、いや地球の社長の了解を得たんかい、と心配してしまいます。いやー大人の都合を知ってしまうと哀しいもんですね。
 ジュヴナイル小説はそんな大人の都合なんて気にしません。登場する主要人物の間だけで地球の運命を決定してしまうのです。それがジュヴナイル小説のいいところなんです。
(とはいえ、ここぞという時にミキ夫達に的確な指示を与えるクラス担任・飯塚先生(あだ名はチューグン:宇宙軍の略)の正体はえらい学者で、政府とのつながりもあるみたい)
 それで、宇宙戦争を阻止する救世主であるはずのロボ助が月行きロケットに乗れずに空港でトラブルを起こすなんて間抜けな事態になるのです。昌山禅師も月行きの手配ぐらいしてやれよ。
(けなしているのではありません。愛ある突っ込みですよ。)
 
     
 
 さて、本作品には原住火星人というのが登場します。ヒトの思考に働きかけることができる、要は催眠術のような能力があるといいます。この能力を使って火星連合の人々に働きかけて地球人を支配しようとします。
 この催眠術の力も鎌倉円覚寺管長の昌山禅師の力によって無力化されるのです。恐るべし禅!禅が地球の危機を救ったのです!
 最後、瀬川博士やモリ・ロメオ・ユウスケらが原住火星人の鎮撫に向かっています。彼らのその後はどうなるのでしょうか。
 何とか地球人と和解して共存共栄していってほしいものです。(2022.01.29)
(以下、旧サイトに掲載していた感想文を転記しておきます。)

 ★(感想:21世紀は宇宙時代だった!
      20世紀後半、我々が思い描いた典型的な21世紀像がここに描かれている!)★

 著者のまえがきには、旺文社の「中二時代」に連載された作品に加筆したもの、と書かれています。
 旺文社の中○時代、高○時代。学研の中○コース、高○コース。小学生向けには、小学館の小学○年生、学研の○年の学習・科学。当時の雑誌には確かに、こういったSFやミステリーものの読み物が掲載されていました。
 現在、このような学年向け雑誌はほとんどなくなり、一部だけ細々と残っております。今の子は少年ジャンプやマガジンなどを読むのでしょうか。しかしマンガだけの雑誌より、色々と総合的な記事が載っている学年別雑誌に郷愁を感じます。
 本書は1969年3月に発行されています。
 物語の舞台はその30年後、1999年です。
 
「人類がはじめて月に到着して基地をもうけてから、いつのまにか二十年たった。おなじように、火星にはもっとたくさんできた基地の町々が、協力して都市連合をつくってからも、もう十年になる。」
 
という一文が当時の未来観を如実に現しています。

1979年 月に基地を設ける
1989年 火星に都市連合ができる
 
 日本で万博が開催された高度成長期真っ只中の頃、これが未来に対する典型的なイメージだったのでしょう。未来に対して最も楽観的であれた時代。
 それから少し後の私が子どもだった頃も、それは続いていました。
 私が読んでいた学年別雑誌には、まさしくこのような未来のイメージがふんだんに登場し、21世紀は全く別の世界が訪れる、と信じていたものです。
 
1973年 五島勉 『ノストラダムスの大予言』発行
 
 しかし、いつから未来のイメージに夢を持てなくなってしまったのでしょうか。今の子ども達の未来のイメージは、どのようなものでしょうか。
 かつて未来に夢を持って育った私達。夢という大切なものをもらって育てられた私達は、この未来に対する夢を次の世代に継承することはできなかったのではないでしょうか……。
 
 動く道路、子ども達だけで運転できる自動車、旅券も許可もいらないアジア連合国家間の旅行、ロボット……。未来社会の典型的なアイテムが本作品にはどんどん登場します。
 ちなみに、アンドロボットとは、表面だけアンドロイド(擬人間)のロボットのこと。人間とそっくり同じにできているアンドロイドはまだ作れず、中味はやっぱり機械で、結局ロボットの一種だと説明されています。ロボットやアンドロイドやサイボーグなども、必須の未来アイテムだったなあ。
 
 また、中学校の新学期が9月から始まっているのも、未来を感じさせる設定です。
「昭和のおわりごろから外国式がはいってきて、この一九九九年の今では、四月式と九月式が半々だ。」
と説明されております。実際、学校の新学期が4月から始まるのは世界的に見て少数派のようです。それで一時、新学期を9月から始める、ということが本気で検討され、実現性を持っていた時期もありました。

 また、「禅」が世界に広がっている、という設定も面白い。
「鎌倉の参禅会は、このごろでは春と秋に、世界じゅうから何万という人があつまる盛大なもので、日本仏教の「ゼン」は、月や火星にまでひろまっているほどである。」
 本作品での禅の扱いは、単に脇役として記述されたものではありません。鎌倉円覚寺管長の昌山禅師がロボ助を鍛え、ドジなロボ助を立派にして火星との戦争の解決に向かわせる、という、重要な役割を担っております。
 
 ついでに、火星都市連合の人々はラテン語を基礎にした国際語(インテルリングア)を使っている、という設定が興味深いですね。中立的な国際語エスペラントという概念もまた、一時、未来の夢、として語られていたことがありました。
現実にはその理想は忘れられてしまい、アメリカやイギリスの母国語である英語が国際語ということになっておりますが。

 また本作品は、結構勢いに乗ってユーモアたっぷりな描写にあふれております。ミキ夫やロボ助たちのドタバタ劇が楽しい。
 ミキ夫を支えた名脇役ノダ・コータローも、登場時、ロボ助に
「おめえ、ヘソねえじゃねえか!」
と言って、ロボ助の腹にヘソを落書きします。
 確かこんなCM、あったんじゃないかと思っていたら、後でロボ助が鎌倉円覚寺に向かう珍道中のシーンで、タクシー運転手がロボ助に向かって
「ケロヨンみてえなつらつきだして、人をおこしやがって、ロボットがタクシーに何の用があるんだ!」
とどなる描写がありました。

 この本の巻末には、解説として、瀬川昌男さんが、火星について10ページにわたって説明されております。ジュニア向けSFの本に、こういった科学読み物が付録としてついているのも、またいいものです。
 想像の世界に遊んだ後は実際の科学について勉強する。子供時代にこのような文理を超えた読書をして未来の社会を想像し、自らの将来の職業について思いをはせるのもまた貴重な経験です。
 
 宇宙時代となった近い未来を舞台とし、子供たちが大活躍して宇宙戦争を解決、世界は平和に向かう……。20世紀後半の幸せな未来像です。かつて私たちは、このような夢に満ちた未来を想像して育っていたのです。今私たちは、子供たちにこのような夢を与え、実現できるように努力していくことが必要ではないでしょうか。 2002.2.15(金)

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