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「はたらき人間」の反乱!?【コンピューター人間】桜井信夫


  ★コンピューター人間 (創作子どもSF全集18)
    桜井信夫 (著)  斎藤博之 (絵) 国土社 1971年

★ ☆ ★ ☆ あらすじ ★ ☆ ★ ☆彡
時は2071年季節は春!物語はテルオの家に一通の書類が届いたことから始まります!
「2565番は、三月十五日午前十時、G号バスにて、特殊教育センターに入所すること。」
読んだお母さんは座り込んでしまいます!3月15日とは今日のことであります。果たして特殊教育センターとは一体何なのでしょうか!?不安そうなお母さんに見送られてテルオは特殊教育センター行きのバスに乗りこみます。

そこで着いた特殊教育センターでテルオは命令に従順な性格になるための再教育を受けさせられれるのです!コンピューターで成績を集計した結果は何とマイナス150点!ここではもうお手上げだということでテルオは遺伝子工学研究所に送られ、さらにそこでも失格の烙印を押されて「収容所」に送られます!

そこにはテルオと同じような仲間がいました!彼らと話し合い、テルオは自らの誕生の秘密を知らされます!!何と彼らは働くためだけに生まれてきた「はたらき人間」だったのでした!しかし自分の意志を持ち自分で考えることを始めたテルオ達は失格扱いにされ、遺伝子実験される運命にあったのでした!!
5人の仲間が実験台にされると決まった日、彼らがとった行動は……!!

★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆彡

【感想:「はたらき人間」の反乱!?人類はどう考え・どう行動し・どのような未来を選択するのか!!】
 いきなりテルオに来た出頭命令。「2565番」と番号で読んだり、出頭場所が「特殊教育センター」だったり、母親の気落ちなど、不穏な雰囲気です。
 着いた教育センターの所長のあいさつも、
「命令どおりにしてください」
「考えてはいけない」
「これまでのこと、すべてをわすれよ」
などと、不穏です。
 これはまさに洗脳です。カルト宗教や軍国主義教育を思わせます。2071年の教育システムはこんなになってるのですね。
 しかしテルオ君はそういう教育方針になじめず好奇心を持って自由な行動を行うため、教育センターから研究所を経由してとうとう収容所に送られてしまいます。
 そこに先に収容されていた子どもや大人達から聞かされた真相!
 何と彼らは遺伝子工学によって造られた「はたらき人間」だったんだよ!な……、何だってえ~~~~~~~!!!
 自分の意志を持って自由に行動する彼らは遺伝子工学の失敗作ということになるようです。
 

「(遺伝子工学は)数少ない、力のある人間たちのために、もんくをいわずに、ただはたらくためだけの役に立つ人間をつくりだした」
「きみたちは、はたらき人間としては失敗した“できそこない”というわけだ。そして、できそこないだからこそ、ほんとうの人間なのだ」
 
 な……、何だってえ~~~~~~~!!!
 本作品が発行されたのは1971年1月。万博が開催されていた頃にこのような作品が描かれていたわけです。
 当時はコンピューターとか遺伝子工学といえば明るいイメージがあったのではないでしょうか。
 ところが本書ではコンピューターは人間を支配するものとして描かれ、「コンピューター人間」とは個人としての人間として認められない機械の歯車のような存在として描かれているわけです。
 当時の問題提起としてはかなり鋭いものだったのではないでしょうか。
 科学万能、未来楽観視観に乗らずに批判的に問題点をえぐり出した本シリーズの問題提起力は本物です。
 
 さて21世紀も20年以上経過した現在、改めて本作品を検討してみますと、本作品の問題提起はあながち的外れではなかったような。
 というか、人々を洗脳することは遺伝子工学なんかなくても可能なんです。
 人類の歴史上、民主主義という概念が現れたのはごく最近であり、しかもごく一部の地域にしか普及しなかったのです。
 地球上には民主主義が実現していない地域がほとんどであるし、民主主義が実現している国でもその存在は常に脅かされているのです。当然、敗戦によって戦勝国から「戦後民主主義」をもたらされた日本もその例外ではありません。

「命令どおりにしてください」
「考えてはいけない」
 
 こんなこと、普通の学校でも行われているような気が。
 教科書検定の強化など、日本政府の教育方針自体がピラミッド体制のトップダウンを志向しているようです。
 そして若い世代の人は異論を申し立てることに対して批判的で、選挙でも与党に投票する割合が多いようです。
 何だ、遺伝子工学なんかなくても洗脳に成功しているじゃありませんか。事実は小説より危険なり。


 
 ところで、遺伝子工学で都合のいい人間を製造するということについて、タイトルは忘れましたが星新一のあるショートショートを思い出しました。
 確か臓器移植のために造られて、手術が決まれば政府の人間が家に迎えに来るというものでした。反抗の限りを尽くしていた子どもが最後に悲しそうな表情をして両親を見るシーンが物悲しくてなぜか忘れられません。感情と結び付いた記憶は強烈ですね。
 
 さて、仲良くなった収容所の人々は団結して反乱を計画します。
 その反乱の滑り出しはうまく行き、その反乱を広げるために仲間達が各地に向かうところでお話は終わりです。
 さて、その後はどうなるのでしょうか。
 最初はうまく行ってもその後もうまく行くとは限りません。そこからの展開は読者が考えろということでしょう。ということで、問題提起の作品だったわけです。

 未来社会を明るい一色で描かず問題提起の作品も多かった国土社の創作子どもSF全集では他にもその後を想像させる作品が収録されています。

北川幸比古『日本子ども遊撃隊』
三田村信行『遠くまでゆく日』
久保村恵『ぼくのまっかな丸木舟』

 当時これらの問題提起を読んだ子ども達はその後をどう想像したのでしょうか。そしてその想像はその後の人生にどう影響したのでしょうか。
 もちろんその結果が現在の社会に反映されているわけです。
 2020年代に住む我々がこれらの作品を発掘して考えることも意義あることではないでしょうか。


 星新一さんの作品に『声の網』という作品がありました。コンピューターに支配されている未来社会で反乱が未然に防がれるという物語だったような気がします。テルオ君達の反乱もこのような結末に終わるかもしれないのです。
 まあ革命でも起こらない限り、社会が大きく変わることは滅多にないでしょう。金と権力を持つ方が圧倒的に有利であり、金と権力がない人々はいくら団結しても裏工作で変節したり各個撃破されていきます。
 核エネルギーによる発電も危険なことが分かり、一時は衰えましたが、最近復活しつつあります。
 カルト宗教が政治に深くかかわっていることも明らかになりましたが、それでも現時点では政治は大きく改善されることはないようです。何しろカルト宗教に便宜を図り組織票を差配していた人物が国葬されるくらいですから。
 事実は小説より奇なりといいますが、事実は小説のようにはうまくいかないようです。国民主権なんて、ちょろいもんですね。
 さて今後人類はどう考え、どう行動し、どのような未来を選択するのでしょうか。(2022.10.24)

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