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S・ホームズの良きライバルであるかの教授が大活躍!『失われた世界』

 シャーロック・ホームズシリーズの作者コナン・ドイル描くチャレンジャー教授シリーズの第一作。
 古代生物が生存する南米大陸の秘境(メープルホワイトランド)の探検物語です。
 シリーズ第二作『毒ガス帯』で8月27日が記念日だという記述がありましたが、探検隊一行がメープルホワイトランドに上陸した記念すべき日が8月27日のようです。
 世界各地を探検する物語はジュール・ヴェルヌが得意とするところであり、『グラント船長の子ども達』では南米大陸やオーストラリア大陸などを訪れています。『地底旅行』では地底で古代生物が生き残っている描写がありましたね。
 コナン・ドイルは本作品でヴェルヌに勝るとも劣らない秘境の探検物語を描いています。
 ワトソン役を務めるマローン記者がチャレンジャー教授と初対面して南米の失われた世界の恐竜世界の話を聞かされた時、もっともらしい説明をつけてチャレンジャー教授の話を否定しようとします。
 不思議な話に科学的な説明をして否定しようとするのは、何だかシャーロック・ホームズのようです。
 もっとも本作品では嘘のようでも実在していた世界の話だったわけですが。
 本作品では最後にメープルホワイトランドから下界への抜け道に関する暗号地図も登場します。
 マローン記者がこの暗号を解く名探偵役を務めて拍手喝采なわけなんですが、これ、バレバレじゃないですか?
 チャレンジャー教授もロクストン卿も何でこの暗号を解けなかったのでしょうか?
 

  

 さて本作品では、火山活動によって広大な土地が隆起し、周囲と環境が変わったために独自の生態系が残ったという設定になっています。
 確かにオーストラリア大陸や他の島々でも周囲と隔絶した地域が独自の生態系を持つという例があります。
 そういう世界が南米大陸に存在しているという、科学的に興味深い話です。
 本作品でチャレンジャー教授が説明しています。

「この台地の面積はおおまかに見てイギリスの平均的な州に満たないくらいである。このかぎられた土地に一定数の動物が生息している。」
「この狂暴な恐竜の頭数を抑えるなんらかの制限があって、自然のバランスがたもたれていると考えるしかない。その制限とはなにか、どのように働くのかを解明することが興味深い問題の一つである。」(中原訳P192)
 
 その後サマリー教授と科学的雰囲気で議論を始めたようですが、マローン君は興味なかったらしく省略しています。ちょっとこの議論を聞いてみたいところです。
 その後チャレンジャー教授はメープルホワイトランドの生態系の歴史について最新の仮説を提言しています。
 
「古代種は生き残りつつ、新しい種と共存してきたのだ。」
「今度は猿人とインディオが出てきた。」
「これは外部からの侵入を考えるほかないと思う。」(中原訳P251)
 
 この仮説にはサマリー教授は不同意だったようですが、残念ながら疲労困憊のサマリー教授に反論する気力がなかったために議論とはなりませんでした。

 さて本作品でチャレンジャー一行はメープルホワイトランドに住む狂暴な猿人達に捕らえられ、サマリー教授が処刑寸前のところまで追い込まれます。
 窮地を脱したチャレンジャー一行はその後インディオ達に加勢して猿人を攻撃します。
 これは現在の視点で見ると問題ある行為ではないでしょうか。
 正統防衛の範囲ではやむないとは思えますが、ここまでくると過剰な正当防衛ではないでしょうか。
「人類進化上の失われた環」とも言える科学的に貴重な種族をほとんど全滅に追い込んでいるのですから。
 猿人達に殺されそうになったサマリー教授が「調査隊の本来の目的から大きくはずれた行動だ」と攻撃に消極的なのは科学者らしい態度。
 しかし文明人たる白人に脅威を与える未開人は討伐する、これが当時の白人優位主義の大英帝国の考え方だったのでしょう。
 オーストラリアやタスマニアの原住民も討伐されたようです。
 
バウンティ号の反乱 その他
  https://sfklubo.net/bounty/
 
 それにしても、チャレンジャー教授そっくりで教授を特別扱いしてくれた猿人の王の最後はあっけなかった。気が合っていたチャレンジャー教授はどう思ったのでしょうか。

 
 さて、メープルホワイトランドから下界への帰り道が失われたためにチャレンジャー教授は一計を案じます。
 火山ガスと恐竜の内臓を使って気球を作るという方法です。
 結局この方法は実現しなかったのですが、後に『マラコット深海』で、この方法で帰還しますね。

異世界間の結婚問題 『マラコット深海の謎』
  https://sfklubo.net/the_maracot_deep/
氷川瓏&柳柊二版『マラコット深海』
  https://sfklubo.net/yanagishuji/

 さて今回、あかね書房少年少女世界SF文学全集3『恐竜世界の探検』(白木茂訳)と創元SF文庫『失われた世界』(中原尚哉訳)を読み比べてみました。

 

1973年
恐竜世界の探検
 白木茂・訳
 旭丘光志・絵
  あかね書房少年少女世界SF文学全集3
 
2020年
失われた世界
 中原尚哉・訳
 装丁 生瀬範義 さし絵 ハリー・ラウンツリー
  創元SF文庫

 少年少女向け翻訳では原作を改変することも多々ありますが、あかね書房の全集は原作を忠実に訳する方針のようで、白木茂の翻訳もほぼ原作に沿っています。
 ただ、登場する恐竜の名前が完訳版と一部違っています。
 子ども向けによく知られた名前の恐竜に変えたのだと思います。
 例えば、探検報告会で披露した恐竜の名は原作では「プテロダクティルス」ですが、白木版では「プテラノドン」となっています。
 まあ確かに飛ぶ恐竜・翼竜といえば「プテラノドン」ですね。
 それで、飛んで行った翼竜のその後について完訳版では
「広大な大西洋のどこかで力つきたと思われる」
と記述されていますが、白木版では
「ふるさとをあこがれる動物の生まれつきの本能で、正しい針路を進んだとすれば、おそらく、仲間のむれがすんでいるあの台地の池へ、ふたたびもどりついたことだろう。」
となっています。
 

 ところでこの白木版の挿絵は旭丘光志という方が描いています。
 何となくさいとう・たかをさんの画風に似ている気がします。
 私は子どもの頃読んだ時、ゴルゴ13の人が描いているんだと思っていました。
 この旭丘光志さんを検索すると、色々な著書が出てきます。

 講談社からコミック・名探偵ホームズ全集も出しているようです。
 同姓同名のツイッターも出てくるのですが、同一人物なのでしょうか。

旭丘光志
   https://twitter.com/kojixy

 そして創元SF文庫の中原訳ですが、これは2020年に出た新訳版です。
 私は今まで創元推理文庫は字が小さくて読みにくいというイメージがあったのですが、さすがに本書は新訳なだけあって字が大きくて読みやすいレイアウトで読書がはかどります。
 もちろん訳文も違和感なく読めます。
 そして本書には「ストランド」誌連載時の挿絵が収録されています。
 さらに、貴重なチャレンジャー一行の記念写真まで掲載されています。
 日暮雅通さんの解説によると、「偽のリアリティ」を演出するために撮影されたそうです。
 そしてこの写真でチャレンジャー教授を演じているのは何とドイル自身だそうです。

 
 それはともかく、本作品の次に描かれた『毒ガス帯』ではマローン君は探検隊に参加せず新聞記者を続けていました。
 メープルホワイトランドはその後どうなったのでしょうか。
 

 本作品は2016年には光文社古典新訳文庫からも新訳が出ているようです(伏見威蕃・訳)。
 こちらは注釈が充実しているようです。
 各社から付加価値を付けた新訳が出るのは良いことですね。
 本作品は少年少女向け翻訳も数えきれないくらい出ています。
 チャレンジャー教授シリーズとしては日本では本作品が一番人気ですね。というか他の作品が忘れ去られたようになっています。
 ドイルはシャーロック・ホームズシリーズの人気が出てやめられなくなったそうですが、チャレンジャー教授シリーズの人気はどうだったのでしょうか。こちらもホームズシリーズのように人気が出て次々に続編が描かれたら良かったのにと思います(2021.06.20)

 

21世紀版『失われた世界(ロストワールド)』映画化原作!
【コナン・ドイル原作】【森詠監督】
  https://sfklubo.net/moriei/

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