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ヴェルヌ『青い怪光線』の原作は何と……!オリジナルの展開が!


偕成社ベルヌ名作全集13
久米元一・訳 山野辺進・絵
1969年

 大阪府立図書館で偕成社のベルヌ名作全集について調べると、本書を含めて2冊だけ在庫がありました。
 早速本書を借りて見ると、内容は何と『サハラ砂漠の秘密』でした!
 

 
 ヴェルヌには『緑の光線』という作品があるようで、多分この作品かと思っていたのですが、違いました。


 
 何で『サハラ砂漠の秘密』の翻訳が『青い怪光線』になるのでしょうか。
 どうやらカマレ博士が砂漠を緑化する際に使う青い光線のことらしいです。
 しかもこの光線は相手を攻撃するレーザー光線のような武器にもなります。
 この光線をフィーチャーしたタイトルのようです。
 

 
 内容を読んでみますと、ストーリーの大枠は変わっていないのですが、子ども達が理解しやすいように一部編集が加えられています。
 原作では語り手がバルサック調査団のメンバーである新聞記者のフロランスとなっていて、フロランスの視点が主となっています。
 ところが本書ではジェーン・ブレイズンが主人公となり、記述もジェーンが中心となっています。
 そのため原作に多くあったバルサック調査団に関する記述がほとんどなくなり、フロランスの出番もほとんどなくなり、副団長のボードリヤール一行は存在しないことになっています。
 確かに子ども達にとっては、主人公の視点が一点に固定している方が理解しやすいかと思います。
 しかもバルサック調査団の目的は、最初から「まぼろしの帝国」の調査ということになっています。
 子ども達には最初からブラックランドの存在を示唆して「出るぞ、出るぞ」と脅かし、「いつ出るか、もう出るか」と期待させるのです。
 これらは子ども達が読んで理解しやすいための編集かと思います。
 その点、学研・少年少女ベルヌ科学名作全集の塩屋太郎訳版は、原作に忠実な翻訳となっています。
 学研版の方がより年長の読者を想定し、偕成社版はより年少の読者を想定しているようです。
 
 そして本作品の真骨頂・読みどころは、最後のハリー・キラー軍との戦闘シーンです。
 この戦闘シーンは原作においても何だかグダグダした展開だったのですが、本翻訳版では全くオリジナルの事態が展開されています。
 そもそも本翻訳では、ハリー・キラーの住む宮殿とカマレ博士の住む工場はカヌーや馬で1時間程度だとか、ものすごく遠い距離のように描かれています。
 まぼろし帝国の地図は掲載されていないのですが、一体どのような設定になっているのか興味あります。
 そして本作品では、まずトンガネが一人乗りのカヌーを作って川を下って脱出し、チンブクツにいるマルスネイ大尉に助けを求めに行くことになっています。
 それから、原作ではハリー・キラー軍と反乱軍が肉弾戦を展開して混戦中にジェーンがハリー・キラーを訪ねることになっているのですが、本翻訳では両軍の肉弾戦はありません。
 食糧不足の責任を感じたジェーンがマリクを連れて馬に乗ってハリー・キラーを訪れます。
 交渉の末、キラーが反乱軍に食糧を提供する代わりに1週間後の5月10日の建国記念日に結婚式を挙げることになります。
 この1週間の間のジェーンの冒険が読みどころとなっています。
 やがてカマレ博士は心労と後悔で気が狂い、青い光線をめちゃくちゃに発射します。
 キラーの住む宮殿も破壊され、キラーは崩れた石柱の下敷きになります。
 ジェーンはキラーを助けようと努力します。
 子ども達が読む作品の主人公としては、憎き異母兄でも見捨てようとしない優しさの設定が必要なのです。
 

 
 本書の翻訳者・久米元一は児童文学作家ですから、原作と比べてそんなに的外れではないパラレルワールド展開だと思います。
 セリフなんかもちょっと説明調でくどいと感じる点もありますが、結構生き生きとした会話をしています。
 例えば、物語最後でトンガネとマリクが結婚式を挙げる際、靴を履くことに慣れないマリクが
「こんなものをはかされるくらいなら、アフリカへかえって、いもむしをたべていたほうがよっぽどましだわ」
とぼやいて、バンバラ語を解するジェーンだけが笑いそうになるシーンがあります。児童文学作家・久米元一の面目躍如のオリジナルシーンです。
 私も物語の構築能力がついたら自分なりのオリジナル展開を執筆してみようかなと妄想してみたりして。

 さてページ数を見てみましょう。
 本・偕成社版は 23字×16行×2段×185ページ=136160字
    学研版は 26字×18行×2段×165ページ=154440字
 どちらも2段組になっているので児童向け抄訳とはいえ文字数が多く、原作の骨組みを十分に伝えていると言えるでしょう。
 
 
 しかし、オリジナル展開とは恐れ入りました。
 子ども向け縮約と軽く見てはいけません。
 当時の子ども向け翻訳はレベルが高かったのです。
 今後も発掘調査が必要だと思い知りました。


 
<解説1>原作者と作品について 久米元一
 
 4ページですが、なかなか読ませます。
 法律家だった父親はベルヌの趣味に理解を示さなかったが、7歳になった時にやって来た家政婦のマーサリンが味方になってくれた、と。
 彼女は船乗りから話を聞いてジュールや弟のポールに面白おかしく話して聞かせたと。
 彼女は話術の名人であり脚色の天才でもあって、ジュールの空想力を培ってくれたと。
 そして11歳の時、ジュールは両親に内緒で船員になり、出航しようとします。
 その時にジュールの行動を察して両親に知らせたのがマーサリンだったと。
 少年時代のヴェルヌのこの事件についてはよく知られていますが、その裏に家政婦の活躍があったとは知りませんでした。
 ネットでマーサリンについて検索しましたが、出てきません。
 ヴェルヌの想像力を育てた家政婦マーサリンについて、埋もれてしまった面白い存在ではないでしょうか。
 さてそういう貴重な事実を発掘している解説ですが、本作品については
「この作品がいつごろ書かれたものかわかりませんが、おそらく壮年時代に筆をとり、老年になってさらに筆をくわえたものといわれています」
と書かれています。
 最近の研究によるとこの作品は、ヴェルヌの構想をもとに息子・ミシェルが執筆したものだと判明しています。
 しかし昔はジュール・ヴェルヌの作品だと思われていて、作者ジュール・ヴェルヌとクレジットされて発売されていたのです。
 

 
<解説2>ジュール=ベルヌの年表

<解説3>砂漠の改造と人工降雨 科学評論家 日下実男

 北アメリカ砂漠のインペリアル・バレーなどの例を挙げ、砂漠緑化に希望を持てる解説。
 人工降雨についても触れられています。
 アメリカの人工降雨会社の社長・アービング=P=クリックなどは大儲けして億万長者になったと書かれています。
 日本でも人工降雨の研究が行われている、と書かれていて、希望を持たせるような風に書かれています。
 ところが21世紀になって20年経過した現在、砂漠緑化も人工降雨も実現されていません。
 人工降雨については気象兵器だとか陰謀論の文脈で語られることが多くて、タブー視されているような有様。
 本当のところはどうなんでしょうか。
 しかしこういう観点から見ると、2020年の現在よりも1960年代の本書発行当時の方が未来に希望が持てた時代なんですね。

(なお、表紙画像は こちら様 から拝借しました。)
 

 

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