20世紀少年少女SFクラブ > 記事一覧 > SFロマン文庫/SF少年文庫 > 時間と空間の冒険―世界のSF短編集

時間と空間の冒険―世界のSF短編集

時間と空間の冒険 世界のSF短編集
 福島正実・編 中山正美&金森達・絵
  SF少年文庫(SFロマン文庫)岩崎書店 1971年

―――――☆―――――☆―――――☆―――――☆―――――☆―――――☆―――――☆
【内容】
人工宇宙の恐怖 E・ハミルトン 亀山龍樹
AL76号の発明 I・アシモフ 亀山龍樹
宇宙少女アン クリス・ネビル 福島正実
大英博物館の盗賊 A・C・クラーク 亀山龍樹
武器なき世界 カート・ボネガット 内田庶
次元旅行 R・A・ハインライン 内田庶
この宇宙のどこかで チャド・オリバー 福島正実
未来からきた男 アルフレッド・べスター 内田庶
ロボット植民地 M・ラインスター 南山宏
―――――☆―――――☆―――――☆―――――☆―――――☆―――――☆―――――☆

 本シリーズは少年少女向けの本格的なSFシリーズです。対象年齢は小学高学年から中学生でしょうか。字が小さ目で1ページあたりの文字数が詰まっている印象があります。(45字×16行×274頁)
 そして本巻はすごいですよ。この1冊に珠玉の名作本格SF作品が9つも収録されています。
 中国SF『三体』や伊藤計劃作品などのイメージから、SFは膨大な長編が多いというイメージがありますが、短編で堪能できるSF作品もあるのです。
 福島正実さんによる本書の巻末解説には以下の記述があります。

「SFの面白さは、なんといっても、ふつうの小説にはない、その思いつき(アイデア)の奇抜さと、常識では考えられない、飛躍した空想の自由さと、そしてそうした空想のうしろにある、科学的なものの考え方の新鮮さとにあります。
 もちろん、本格的な長篇SFでもそれは十分たのしめますが、短編SFではそれがいっそうはっきりと、きわだったかたちで出ることが多いのです。この本では、九人の有名なSF作家の、それぞれにかわった九篇の短篇SFをえらんでみました。」

 以下、収録作品について短い感想です。

【人工宇宙の恐怖】E・ハミルトン
 マッドサイエンティストが実験室で宇宙を創造するという話。
 そのアイディアはものすごいのですが、結末も驚くべきものです。
 人間は神の領域を侵してはならないという教訓なのか?
 原作はSF好きな方々の文章で時々言及されているのを見ることがある『フェッセンデンの宇宙』です。超有名な本格SFなのですが、こんなに短く手軽に読める作品だったんですね。
 こんなものすごい作品は読んでおかないと損するというものです。

【AL76号の発明】I・アシモフ
「おおい、ロボ公! なにもかも、おまえのせいだぞ! そんな装置は、すぐさま、ぶちこわしてしまえ! わしゃ知らんぞ! おまえも、なにもかも、きれいさっぱり、忘れちまうだ。」
 月面開発用ロボットとペインおやじのとぼけたようなやり取りと悲劇的な結末。
 訳者の亀山龍樹さんの訳文は会話に特色があります。
 少し前の洋画の吹き替えで田舎の純朴なお年寄りが会話しているような文体です。

【宇宙少女アン】クリス・ネビル
 拾われて育てられた赤ん坊の正体は……?
 集英社ジュニア版世界のSF3に収録されていた『ベティアンよかえれ
でした。訳者も同じ福島正実さんなので同じものでしょう。
 タイトルだけ改題されています。
 本文中で主人公の名は「ベティアン」なのに、「宇宙少女ベティアン」ではなく「宇宙少女アン」になっています。この改題の意味を色々と考察することがSFマニアになる一歩なのです!?

【大英博物館の盗賊】A・C・クラーク
 アルセーヌ・ルパンに匹敵すると自任している怪盗アシュトンは謎の貴婦人から大英博物館の宝物を盗むように依頼される。その助けとして渡された道具は驚くべき超技術だった……!!
幼年期の終わり』を描いたクラークがこんなシニカルな短編を描いていたんですね。

【武器なき世界】カート・ボネガット
 超能力兵器をテーマにした物語。
 この作品が描かれた時代は超能力を兵器に応用する研究が本気で行われていたのではないでしょうか。
 アメリカやソ連では「超能力兵器」が研究されていた、と言われていますし。
 ジョー・マクモニーグルさんが除隊後にTVに出演されていたし。
 私は超能力もSFも同じ感じで好きなテーマでした。
 福島正実さんが超常現象を否定するような作品を書かれていてショックを受けたものです。

異次元失踪
SFの約束を破った問題作!あまりの結末に呆然……
  https://sfklubo.net/dimension-disappearance/

【次元旅行】R・A・ハインライン
 5人の学生が5つのパラレルワールドに行って冒険する話。
 5つも異世界があるのだから長編にできそうなテーマなのに、惜しげもなく短いページ数で終わらせています。
 それにしても、催眠術で異世界に行けるなんて、今考えると無理があるような。
 一つ前の『武器なき世界』もそうですが、当時は精神世界への期待というようなものがあったのでしょうか?

【この宇宙のどこかで】チャド・オリバー
 1980年にタイム・マシンが開発された。考古学者が人類の起源を調査していくと……?
 人類の起源をテーマとした作品。福島正実さんのいう『第二紀人類テーマ』でしょうか?
 著者チャド・オリバーは人類学者。解説には
「宇宙における人類の問題を題材にすることが多く、すぐれた作品をのこしています。日本には『夜あけの霧』、『時の風』などが紹介されています」
と紹介されています。

【未来からきた男】アルフレッド・べスター
 未来からやって来た、ボインと名乗る男の奇妙な要求。
 彼が残した未来の証拠のひとかけらとは?
 ショートショートのような作品。

【ロボット植民地】M・ラインスター
 猛獣が支配する危険な惑星を舞台にした、不法植民者と植民調査局員のサバイバル活劇。
黒い宇宙船』のラインスターさんの作品。
『黒い宇宙船』は子ども向けの都合の良い展開でしたが、こちらは本格的でハードボイルドな展開。
「理性的じゃない人間」
「人間らしい人間」
とは?

……以上、9つの珠玉のSF短編が収録されています。
 文学性あるSFを追及していた福島正実さんが選んだ作品ですから、どれも素晴らしい作品です。
 これらの作品を中学生時代に読むと、その後の人生が変わるかもしれません(大きく変化する人もいるだろうし、それなりに何らかの痕跡として残る人もいるでしょう)。
 小さい字の文庫本で読書するのは大変ですが、本書は児童向けで挿絵もあるので、読みやすいと思います。
 残念ながら中学時代に本書を読むことができず現在SFとは無縁の人生を送っている大人の方々のSF入門書として本書は最適の一冊です。
 気になった方におかれましては図書館や中古市場で探して読むことをお勧めします。(20251220)

編集後記&参照リンク集&コメントコーナーなど
↑ご意見ご感想お寄せ下さい

【トップページに戻る】
20世紀少年少女SFクラブ
【ブログもやってます】
SF KidなWeblog
快眠・早起き朝活・健康生活ブログ
少年少女・ネタバレsalono(ネタバレ注意!)
【Twitterもやってます】
三丁目の書生(20世紀少年少女SFクラブ)
【メルマガ始めました】
20世紀少年少女読書倶楽部
メルマガ詳細
(なお、当サイトはサイト維持の一環としてアフィリエイトを利用しています。)

おすすめ記事

サイト内検索

ligiloj

arkivo

anoncoj

SNS

↓とりあえずランキングに参加しています

ページTOPに戻る