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名探偵ワトソンデビュー作!?【夜光怪獣(バスカヴィル家の犬)】

 ★ 名探偵ホームズ 夜光怪獣(ポプラ社文庫27) 中村英夫・絵
   1976年12月 第1刷 1983年7月 第3刷

『バスカビル家の犬』の山中峯太郎版翻訳です。

 ヘンリーとモーチマ医師が事務所を出てからホームズとワトソンは二人を尾行します。ヘンリー達を尾行している奴がいるはずだと踏んでの調査です。
 原作ではホームズ達は特に着替えずに出かけているのですが、山中版では二人は変装して出かけます。犯人は変装した二人を見破るということで、より有能な奴ということになっています。
  

 本作品ではホームズとワトソンが別行動を取り、ワトソン博士がしばらくヘンリー・バスカビールを守って調査します。
 つまり、いつもは助手であり記録者であるワトソン博士が自発的に行動してホームズの代わりを務めるのであります。
 山中版ではそこを強調して、ワトソン博士を探偵として演出しています。
 
「フウム、きみはホームズ先生の弟子だけあって、すごく気がつくんだね。」
「オイ、弟子じゃないぜ、ぼくは。」
「では、なんだい?」
「これでも名探偵ワトソンさ!」
 
……と、名探偵ワトソンとして行動開始です。こんな風にワトソン博士の語り口が名探偵として気負って描かれています。
 最初の方でホームズと一緒にいる際、ワトソンが気が付いたことを指摘するとホームズが

「素晴らしい。プラス2点!」
と褒めています。今なら「座布団2枚!」でしょうか。
 読者としては天才ホームズの立場とはなり得ず、どうしてもワトソンの視点で考えてしまいます。
 そこを「プラス2点」などと言われて読者をその気にさせる演出です。これはうまい方法です。
 
 ところが探偵熱はワトソンに留まらず、フランクランド老人にも及んでいます。

「ハハア、そこが、星ばかり見ているわたしにも、探偵の目があるのでね。」

……と探偵気どりです。探偵見習のワトソン博士との掛け合いはいわゆる一つの見どころシーンです。
  

 その探偵見習いのワトソンが洞穴で待ち伏せてホームズと再会するシーン。
 原作では、煙草の吸い殻でホームズはワトソンがいることに気付きます。
 ところが山中版では「ワトソンの殺気」で気付くことになっています。

「ムラムラと暗い中からぼくにせまってきたのは、ものすごい殺気だ!まともに危機一髪の、しかも、ワトソンの殺気だから、これには腹の底からおどろいたぜ、じょうだんじゃない!」
 
……と、まるで気功師か超能力者です。

 
 まあこういった語り方の変更があって、馬車をタクシーにしたり電報が電話になったりと現代の子ども達に分かりやすくする改変があります。
 ストーリーとしては基本的には原作に忠実で大きな改変はありませんが、省略があってかなり単純化されています。
 フランクランド老人の娘・ローラは登場しないし、ステープルトンの妹・ベリル嬢の登場もほんの少しです。

  
 
 ステープルトンの背景に関しては本当に必要最小限の記述しかなく、正体を隠した悪い奴だったという扱いです。
 まあそうなんですが、私はステープルトンは残念な人間だったと悲しく思います。
 優秀な学者だったのだからその能力を悪いことに使わずにもっとうまく行動してバスカビール家本家とウィンウィンの関係を築けなかったものかと思うのです。

 

(なお、アイキャッチ画像は こちら から拝借致しました。)

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