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柳原良平のえすえふ絵物語【黒い宇宙船】


黒い宇宙船 マレイ・ラインスター作 野田昌宏・訳 柳原良平・絵
  岩崎書店〈エスエフ世界の名作 9〉 1967年1月
    岩崎書店〈SFこども図書館 9〉 1976年2月
 岩崎書店 <冒険ファンタジー名作選7> 2003年10月 赤石沢貴士・絵

★ ☆ ★ ☆ あらすじ ★ ☆ ★ ☆彡
 超光速宇宙船スター・シャイン号はプロクシマ・ケンタウリ星系の調査に向かった。
 第三惑星は地球型の惑星で、地球人が植民するのに適しているようだった。
 しかしそこで10人の乗組員はピラミッドのような監視装置を発見します。
 この星は監視されている!植民すれば宇宙人から攻撃されるのだ!!
 ラッセル隊長は警告しますが、黙殺されて第三惑星の植民が開始されたのであります!!
 そして10年後……。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆彡

 難しい所がない単純なストーリーです。
 大人の視点から考えると突っ込みどころが満載のようなうまく行き過ぎの展開。
 しかしこれくらいが子どもの想像力や理解力に丁度良い具合なんでしょう。
 子どもが求めているような、子どもがわくわくするような展開です。
 そのストーリーが柳原良平さん描くイラストと非常に良くマッチしていて、さながら「柳原良平のえすえふ絵物語」といった感があります。
 よって子ども達の支持を集めたのでしょう。ネット上でも本書の思い出を書かれている方が多く、復刊ドットコムには復刊リクエストが出ています。
 実際、2003年の復刊(岩崎書店冒険ファンタジー名作選第一期)では10冊のラインナップのうちの一冊として選ばれていたくらいですから。

 ただ、大人の視点から見るとどうしても疑問に思う点が幾つかあります。  

 まず、なぜ惑星探査の宇宙船10人の中に子どものハンクとチヨコが乗っていたのか。必然性はあったのでしょうか。宇宙飛行士になるには相当厳しい難関があるはずです。彼らは子どもながらその訓練を乗り越えたエリートだったのです!
 

 
 そして物語は彼らが立派な宇宙パイロットに成長し、ケンタウリ星系惑星の植民も進んだ10年後が舞台となるわけです。
 しかし宇宙人の意図が分かりませんわ。本当によそ者を排除する気があるのなら何で10年間も待っていたのでしょうか。
 完全排除が目的なんじゃなくて攻撃するのが目的で、ある程度町が大きくなってから攻撃することを楽しんでいたのでしょうか。しかし後に、宇宙人に全滅させられた火星のような赤い惑星が登場するし。
 
 ハンクとチヨコはケンタウリ植民星が宇宙人から攻撃されることを予見し、危機を救おうとします。しかし正式の許可が下りないので違法な方法を取るしかありません。そのため、太陽系博物館に展示されていたスター・シャイン号を奪ってケンタウリ星系に向かいます。
 しかしある程度社会人生活を送っていれば、こんなことは絶対に無理だと思います。
 機械やコンピュータの類は、定期的なメンテナンスを行わないと不都合を起こすものです。
 ましてや超光速宇宙船は超精密機器・超精密コンピュータの塊なんですから、10年間ほったらかしにしておいていきなり動かすなんて絶対に無理なはずです。そもそも燃料補給はどうするのですか。

   
 
 そもそも宇宙船を博物館の中に入れて展示しているのを見学するって、一体宇宙船の大きさのスケールはどれくらいを想定しているのでしょうか?本作品の記述を読むと、観光バス程度の大きさのように読み取れるのですが。しかしそんな大きさの宇宙船で遠くの星まで行けるのでしょうか?
 しかしこれらの突っ込みは社会人生活の常識にしばられた考えとも言えます。
 子どもはそんな現実的なことを考えずに自由に想像力を働かせます。
 スター・シャイン号を乗っ取って追跡を巻く話を含めて、こういう単純にスッキリした展開が子どもを楽しませるのです。だから本作品は社会人の常識にとらわれた視点からではなく、子ども時代の自由な発想の視点から読んでいくべき作品なのです。

 で、ラッセル隊長を迎えたハンクとチヨコにジョオを加えた4人が行動を開始!時を同じくして謎の宇宙人がケンタウリ星系への侵略を開始した!何てうまいタイミングなんでしょう!
 宇宙人相手に4人が繰り広げる冒険はうまく行き過ぎのような感もしますが、これも子どもをわくわくさせる展開であります。

 さあ謎の宇宙人が乗る黒い宇宙船団との対決です!本来は調査船であり武器を持たないスター・シャイン号はラッセル隊長のアイディアにより思わぬ方法で敵を攻撃し、撃退するのであります!しかしこれでいいのでしょうか?あまりにもうまく行き過ぎです。そもそも宇宙空間を飛行する宇宙船です。大気圏突入にも耐えられるはずです。それがこんな簡単に破壊されていいのでしょうか?
 
  
  
 で、飛んできた宇宙船を全滅させてめでたしめでたしで終わるわけなんですが、本当にそれで良いのでしょうか?宇宙人の故郷にはまだまだ宇宙人も宇宙線も残っているのではないでしょうか?彼らが再びケンタウリ星系や地球を攻撃しに来ないのでしょうか?

……とまあ、疑問に思い出せば色々とツッコミどころが出てくる展開なのですが、これはもう、そういう細かいことは気にせずに子どもの心で楽しむお話だということではないでしょうか。

 さて本作品は2003年に挿絵を替えて新装復刊されています。
 旧版の挿絵は柳原良平さんで、ユーモラスな画風の絵がストーリーに合っています。スター・シャイン号や敵の黒い宇宙船も何度も描かれ、イメージが定着します。
 柳原良平さんの挿絵の特徴として、遠くから俯瞰した構図の秀逸さが挙げられます。その典型例が表紙の絵です。 遠くからスター・シャイン号と敵の宇宙船を捉え、しかも乗組員の顔が宇宙船から飛び出して見えるという、現実ではあり得ないデフォルメされた構図であります。こういう構図の絵が頻出しています。それがまたスター・シャイン号と黒い宇宙船の追いかけっこという物語の展開とマッチしています。

      

 それに対して新版の赤石沢貴士さんの絵は、近くから人物を描いた構図が多いですね。
 赤石沢さんの絵は、今風の絵なんでしょうか。現代の子ども達は新版の方の絵が違和感ないのでしょうね。世の中は変わるものです。
 ただ、赤石沢さんの絵はスター・シャイン号や敵の黒い宇宙船の描写が少なくてあまりイメージが定着しないのです。タイトルが『黒い宇宙船』で、宇宙船同士の戦いが山場になっているのだから、もっと宇宙船のバトルシーンを描いて頂きたかったと思います。

     

 本書の「はしがき」で訳者の野田昌宏さんは
「この本をよんでくれてるみなさんのうち、なんにんかはきっと月や火星の土をふむにちがいありません。ひょっとすると、きみかもしれませんね。」
 と書かれています。本書の初版の刊行は1967年。その当時はそういう風に思われていたんですね。

 また、巻末解説「宇宙旅行、昔と今」では、
「一九六七年、おそくとも一九六八年までに、人間は月に行くことでしょう」
 現実にアポロ11号によるニール・アームストロングとバズ・オルドリンが月面を歩いたのは1969年7月20日。少し遅れましたが確かに実現しています。
 それにしても本書が刊行されたのは1967年1月。かなり強気の予想でした。
 なお、2003年に新装復刊された新版では上の一文は削除されています。(2024.01.03)

(なお、アイキャッチ画像は こちらのツイート から拝借しました)

      

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