2026年の予知夢 人類のあけぼの号
なお、アイキャッチ画像(盛光社ジュニアSFシリーズ版)は、まんだらけオークション から
SFベストセラーズ版表紙は こちらのページ から拝借しました。
【あらすじ】
天才的少年科学者・加藤真琴はロボット「人類のあけぼの号」を発明した。しかしロボットに恐怖を持つ人々は研究所に押しかけ、反対運動を繰り広げた。その混乱の中、人類のあけぼの号が真琴の父・徳三博士を撲殺!逃亡を図った真琴は原子力冷凍倉庫の中で凍ってしまう。50年後に目覚めた真琴は社会の激変に驚く。そして実験段階のタイムマシンを利用して50年前に帰り、人生をやり直すことにする。そこで真琴が見た真相は……?!
【感想:冷凍睡眠から目覚めるとそこは50年後の未来だった】
鶴書房(盛光社)のSFベストセラーズのうちの一冊。
本書についても非常に印象に残り、その後の人生でも折に触れ思い出すことがありました。
ちなみに私がSFベストセラーズで折に触れ思い出した作品といえば
1 五万年後の夏休み
2 人類のあけぼの号
3 ねじれた町
4 異次元失踪
でしょうか。
冷凍睡眠から目が覚めると未来社会だった!
そこで描かれている未来社会は当時の人が想像した典型的で理想的なものです。
多かれ少なかれ子ども時代の私達もそのような未来像を持っていました。
しかし2021年に至るもそのような社会は実現していません。
今の子ども達は未来についてどのようなイメージを持っているのでしょうか。
主人公は過去にタイムスリップして歴史を変えようとします。
タイムスリップによる歴史改変について、よく、
「石ころ一つ動かすだけで未来は大きく変わる」
ということが言われます。
ところが本書ではそれとは違う概念が主張されています。
「歴史の歯車はかわらないということだ。歴史は、たったひとりの力がどうもがこうと、かわるものではない。歴史は多くの人の力で動いていくのだ。多くの人の努力でかわっていくものなのだ。そして、2026年は、やはり、いまあるようにしかならない」
硬性憲法・軟性憲法ならぬ硬性の歴史観と軟性の歴史観。
本書で言われている「歴史の歯車はかわらない」という歴史観は、現実に同時代で生きている者にとって実感できる考え方です。
一方で、タイムマシンを使えばやはり簡単に変わるのではないかという考えもあり得ます。
硬性の歴史観と軟性の歴史観の違いは、タイムスリップSFにとって面白いテーマだと思います。
で、子ども時代は何の疑問もなく面白く読んでいたのですが、大人になった今読み返すと、そんなに簡単に行くかと疑問に思うことも。
例えば主人公の真琴は冷凍睡眠で50年間凍っていたのを発見されたのを当時の最先端の医学で蘇生しました。
で、普通ならこの人物はどんな人でどんな事情で冷凍睡眠されていたのか詳しく調査されると思うのです。
しかも重要な未解決殺人事件の時代的・空間的に近い舞台です。
ところが物語はそういう法律的手続きに難しいことはスルーされてどんどん進んでいきます。
マツムラ博士なんか
「政府への届けは適当にしておいたからね。」
とか言ってるし。
さらに、50年前からやって来たこんな重要人物を、当時はまだ実験段階のタイムマシンで過去に戻してしまうし。
こんな重要なこと、内輪の関係者のみで勝手に決めちゃっていいんですか!?
大人になって社会で働くようになると、特定の個人や部署が勝手に何かすることは難しいということが分かってきます。
何をするにも他の部署や関係する社内外の人々との根回しや話を通しておくことが必要なのです。
まあジュブナイルの世界ではそういう難しい折衝は必要なく内輪の関係者のみで話がどんどん進んでいくということなのでしょう。
それはともかく、タイムスリップで無事過去に戻った真琴は、意外な人物の裏切りを知ります。
ミステリーを読み慣れている人なら、犯人はこいつだと最初からフラグが立ってるのがバレバレな状況なのでしょうが、無垢で疑うことを知らなかった当時の私が初めて本書を読んだ時、この展開に非常に驚いたものです。
私は当時はおとぎ話やら昔話など、いい人が報われて悪い人はばちが当たるというような類いの本ばかり読んでいて、いい人は始めから終わりまでいい人で悪い人は始めから終わりまで悪い人だったり改心して良い人になるような予定調和の展開の物語しか知りませんでした。
つまり、ミステリーのような意外な展開・意外な裏切り・意外な犯人という展開の物語に免疫がなかったわけです。
だから本書の展開を読んで非常に印象に残ったわけです。
(同じ意味で、北川幸比古『日本子ども遊撃隊』にも非常に衝撃を受けました
http://sfclub.sakura.ne.jp/kokudosha05 )
さて今回、鶴書房SFベストセラーズ版と秋元文庫版を読み比べてみました。
鶴書房SFベストセラーズ
人類のあけぼの号
内田庶 山中冬児・絵
1967年3月発行
秋元文庫
人類のあけぼの号
内田庶 依光隆・絵
1976年発行
『五万年後の夏休み』(SFベストセラーズ22)の発行は1978年であり、私は1979年の3刷を所持しています。
ということは、『人類のあけぼの号』は、鶴書房がまだ存続していて新刊を発行している最中に秋元文庫から文庫化されていたということになります。
秋元文庫版も内容は鶴書房版と基本的に同じなのですが、ヒロイン・百合ちゃんが秋元文庫版では「ゆり」と平仮名表記になっています。
それから、物語の年代が10年ずれています。
【鶴書房版】
1975年で冷凍され
2026年に目覚める
真琴の誕生日 1959年4月6日
【秋元文庫版】
1985年で冷凍され
2036年に目覚める
真琴の誕生日 1969年4月6日
それから、SFベストセラーズ版には巻末に福島正実さんの解説「人工冬眠の未来」がありますが、秋元文庫には解説はありません。
鶴書房版で未来社会の舞台となった2026年が近づいてまいりましたが、まだまだそんな社会は実現していませんねえ。人工冬眠も実用化されていませんねえ。
当時は近かった理想の未来社会がどんどん遠ざかっているように思えます。
ところで、福島正実さんをはじめ、当時の少年少女向けSF本の解説にはよくSF作品の紹介がされていて、ブックガイドのようになっていました。
私もそういった解説からSF小説の知識をつけていったように思います。
本書の解説でも人工冬眠をテーマにしたSF小説の紹介があるのかと期待していれば、ウェルズの『睡眠者めざめる』だけ挙げられて、
「そのほか、何十人もの作家が、人口冬眠をあつかっています」
と以下省略されています。
ここはぜひハインライン『夏への扉』(1956年)を紹介して頂きたかったと思います。
(何せ訳者は福島正実さん自身なんですから)
SF KidなWeblog
夏への扉 ハードボイルド経済SF
https://sfkid.seesaa.net/article/402972975.html
頭を怪我した真琴は目覚める前、50年後の未来に戻った夢を見ます。
このシーンがまたファンタジックで素晴らしいのです。
これはまた20世紀後半、私達が垣間見た来たるべき未来の夢か幻でもあります。
さて、私たちはそういう世界をいつ実現することができるのでしょうか。
マツムラ博士が言うように、歴史は多くの人の力で動き、多くの人の努力で変わっていくものです。
そのような未来が実現できるよう、努力していこうではありませんか。
↑アマゾンでも中古の在庫あります。画像は秋元文庫版ですが、商品は各版色々あるようで購入時に注意!
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