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【ヒューマノイド】は奉仕と平和の名のもとに統治する

ヒューマノイド - ジャック・ウィリアムスン, 川口正吉
ヒューマノイド – ジャック・ウィリアムスン, 川口正吉

【あらすじ】
 遠い遠い未来・25世紀。人類の子孫は宇宙各所に広がっていた。
 当時、地球連邦はアルファ・ケンタウリ、白鳥座61番星、クジラ座のタウ星の三つの宇宙国家と険悪な状態になっていた。
 地球と三星同盟との間で戦争が始まろうとしていた時、ウイング第四惑星からヒューマノイドの一団が来襲し、戦争を未然に防いだのであった。
 人間への奉仕を建て前とする彼らはその後、各惑星を武装解除させ、平和の名のもとに統治を始めた。
 果たして彼らは人類の救世主だったのか、それとも支配者なのか!?
 フォレスター博士は超能力を武器とするグループと近付き、レジスタンスを開始する!
 しかしそこに立ちはだかったのは、博士の部下であるアイアンスミス技師であった!!
 超能力部隊 VS ヒューマノイド!!
 静かなるレジスタンスの結末は果たして……?

ヒューマノイド ハヤカワ・SF・シリーズ
 川口正吉・訳 早川書房 1965年

SF名作シリーズ1 なぞの宇宙ロボット
 福島正実・訳 依光隆・絵 偕成社 1967年
  21字×15行×2段×180頁

少年SF・ミステリー文庫6 宇宙の侵略者 
 福島正実・訳 藤沢友一・絵 国土社 1983年

海外SFミステリー傑作選3 宇宙の侵略者
 福島正実・訳 藤沢友一・絵 国土社 1995年(1983年版と同じ)
  38字×13行×126ページ

 宇宙開発が進んで遠く離れた星に人類が入植して各々文明を発達させているという設定です。
 ということは、各惑星には固有の生物はなかったのでしょうか。
 宇宙人がいなくて地球人の子孫だけという世界観。
 しかしそれでも仲の悪い星というのが出て来て宇宙戦争が始まりそうになっています。
 科学が進んでも人間社会から戦争はなくならないのですね。
 そこに現れるアンドロイドの軍団!
 ウイング第四惑星でアンドロ軍団を開発したマンスフィールド博士も地球人類の子孫なんです。
 ヒューマノイドが支配する世界は善か悪かがテーマです。
 フォレスター博士は悪だと判断し、レジスタンス一味に接近し、協力します。

 ところで本作の主人公のフォレスター博士はすごい人で、「ロード磁気学」という新しい学問の創始者です。
 つまり、アインシュタインのような科学者なんです。
 本書にはロード磁気学の説明が色々とされているのですが、本当なのでしょうか?実現すればすごいのですが、現実は単なるフィクションなんでしょうか?
 しかし一つの作品の中で架空の学問体系を作ってしまうとは、サイエンス・フィクションとはスケールの大きいジャンルですね。

 ヒューマノイドが支配する世界は人間の自由意志を束縛するものでした。
 ヒューマノイドによる統治・独裁による統治の是非を問う本作は哲学的で考えさせるものです。
 そして結末は、オーウェル『1984年』を思わせるものとなりました。
 果たしてこれで良かったのかどうか、はっきりとしたことは描かれていません。
 それは、ヒューマノイドによる統治の実態が未だよく分からないからであります。
 人格者による独裁が平和と幸福につながるかという問題意識と共通するものがあります。
 この時点では作者は問題意識を投げかけるにとどめ、結論を読者に委ねたのではないでしょうか。

 本作品は福島正実さんが子ども向けに訳した版が二種類出ています。

 何と、どちらも途中で改変して強引に終わらせています。
 原作ではフォレスター博士は超能力をマスターし、アンドロ軍団率いるマンスフィールド博士やアイアンスミス技師を相手に大立ち回りを演じます。
 ところが福島版では最後の部分が大胆に改変&省略されています。
 偕成社版は文字数が多いため原作をかなりの部分とどめてはいるのですが、国土社版ではバッサリと省略されています。
 まあページ数の問題もあるし、子ども向けの読み物としてこれは正しい判断だと思われます。
 原作をそのまま訳すのは子ども向けの本としては哲学的過ぎて難し過ぎるのではないでしょうか。
 ロボットや科学の発達した未来の社会を前にした子ども達が読む物語としては、科学技術の象徴であるアンドロイドと和解するというのは当然の成り行きのように思えます。

「わたしは、いつまでもヒューマノイドたちに人間をみはらせておくつもりはない。
 人間が、人間自身をコントロールできるようになったとき――そのきは、ヒューマノイドたちは、ほんとうに人類の忠実なめしつかいになる。」(偕成社版)
「そしてそのときこそ、ホワイトとか、ジェーンとかの超能力者が先頭に立って、あたらしい、よりすぐれた人類をつくるときなのです。」(国土社版)

 子ども達が読む物語としてはこちらの終わり方の方が優れていると思います。
 福島正実さんの見事な換骨奪胎子ども向け翻訳と言えるのではないでしょうか。

 ただ、大人が読む分としては、あまりにも単純化し過ぎる結末のように思えます。
 同じ和解(降参)するのでも、原作のように、フォレスター博士が色々な無駄な抵抗をして完全に打ちのめされた末に和解(降参?)するという過程が本当に重要な部分なのではと思います。
 超能力で人や物を破壊しようとしても無意識は創造に反する作用は発揮しない、というエピソードも非常に重要ではと思えます。

 なお、本作品には続編もあるようです。一体どんな展開なのでしょうか。ヒューマノイドによる統治の善悪が明らかになるのでしょうか?内容だけでも知りたい気がします。

 本作品の翻訳がかつて日本で三種類も出ていたとは、素晴らしいことです。
 福島正実さんは子ども向けに二種類の翻訳を出しています。それだけ本作品が子ども達に必要な作品だと思われていたのでしょう。
 21世紀に生きる我々は、本作品の翻訳を再発見して読み比べてウイリアムスンさんや福島正実さんが提出した問題提起について考えてみるべきではないでしょうか。(2024.0602sun)

  

依光隆・絵

  

依光隆・絵

  

藤沢友一・絵

(なお、本の表紙画像は こちら と こちら から拝借致しました。)

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