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落語的展開からのホラーな結末!杉山径一 【おかしの男】


 おかしの男
  杉山径一 著 小林与志 絵 1969年国土社

落語的展開からのホラーな結末!杉山径一 【おかしの男】

★ ☆ ★ ☆ あらすじ ★ ☆ ★ ☆彡
 ある日の夕方のことであります!早川速雄くんは本田清さんというおかしな人と知り合います!
 本田さんは家出した光岡蜜夫さんを探しているというのであります!
 生意気な早川くんがちょっと頼りない本田さんを理屈で問い詰めたところ、本田さんに気に入られます!
 君みたいな優秀な少年を助手にしたい、と持ち上げられ、家出人探しのチラシ配りのアルバイトを手伝うことになりました!立派に仕事を果たした早川くんはお駄賃として、五千円の模様が彫られた大きなコイン・チョコレートをもらうのであります!
 こんなの誤魔化しだ、本物のお金が欲しいと言っても後の祭り、本田さんは車に乗って行ってしまいます!
 変な奴だと思いながら歩いていると、何と当の光岡蜜夫さんに声をかけられるのであります!
 灯台下暗し!蜜夫さんは本田さんの後ろをつけていたわけであります!
 そして蜜夫さんの正体は、ある製菓会社が極秘裏に開発した、おかしでできたおかし人間第一号だったのでした!
 な……、なんだってぇ~~~~~!
 事情を聞いた早川くんは蜜夫さんをかくまってあげることにするのですが、それが大事件の始まりなのでした!!!
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆彡 

     
 
【感想:落語的展開からのホラーな結末!いやあ世の中にはすごい作品がまだまだ埋もれているんですねえ(ネタバレ注意!)】
 これはシュールでおかしな物語です。
 主人公である語り手は最初に本田さんと出会い、色々と質問を浴びせます。そのやりとりがゆるくて、まるで落語のようです。
 それで後ほど、本田さんが探していた蜜夫さんと出会い、蜜夫さんと仲良くなって本田さんが敵役だということになります。
 光岡蜜夫さんと早川くん・足立くん・高木くんのやりとりもシュールでゆるくて落語的展開です。
 そもそもお菓子会社がお菓子でできた人間を創造した、というストーリーはSFというより落語の発想です。これじゃ創作子どもSF全集ではなく創作子どもSF落語全集です。
 ボンボン製菓株式会社の主任研究員の光岡豊さんが蜜夫さんとそっくりで、なぜなら自分をモデルにして蜜夫さんを造ったからだというのも笑うところです。
 ボンボン製菓の守衛のおじいさん達がおかしの兵隊にコスプレして蜜夫さんを捕まえに来る展開もお笑いです。
 
「ふーっ。もう、こしがいうことをきかん。やれやれ、なんてくたびれるアルバイトだ」
「勝敗はときの運。みなさん、これはわしらのまけじゃ。いさぎよく、いざ、てったい」
 
と言いながら腰をさすりさすり逃げていくのは私のお気に入りの名場面です。
 そして、蜜夫さんを探していた本田さんとその仲間もおかし人間だったということが判明!おかしの男2号から14号だった!
 何だか仮面ライダーVSショッカーライダーみたいですね。
 蜜夫さんや早川くん達がボンボン製菓のみなさんと戦うシーンはグダグダとしたゆるい展開で、仮面ライダーというより仮面ノリダーです。

   

 おかしの男1号はショッカーならぬボンボン製菓を裏切って脱走したのに2号以下がボンボン製菓に忠誠を誓っています。
 これは製作者の豊さんが自分に似せた1号を特別扱いした結果なのでしょうか?
 なお、『仮面ライダー』のメディアミックスの展開は1971年ですが、それに先立つ本作品です。
 結局蜜夫さんはおかしの子ども第一号・キャンディーちゃんと一緒にスポーツカーに乗って旅立ちます。わははは……!

    ←キャンディーちゃんといえば……
 
……と、ゆるい落語的展開を楽しんでいたら衝撃的な結末が待っています。
 蜜夫さんを逃がした次の日から早川くんは熱を出して寝込みます。おかし人間がかかる致命的な病気・ビスケット熱だ!

 早川くんは足立くんに頼んで、研究所の光岡さんのところに薬をもらいに行ってもらいます。
 帰ってきた足立くんが持ってきた衝撃の真実!
 実は旅立った蜜夫さんは豊さんで、今研究所にいるのは蜜夫さんだったんだよ!!
 しかも今、蜜夫さんは会社に内緒で人間をおかし人間に変える研究をしているんだよ!!
 な……、なんだってぇ~~~~~!
 それで蜜夫さんは確かに早川くんのビスケット熱の薬をくれたのですが、この薬はおかし人間がかかったビスケット熱の薬だという。
「ふつうの人間がかかったビスケット熱にきくかどうか、まだわからないってさ」

 な……、なんだってぇ~~~~~!

「ぐるぐる、ぐるぐる。ぼくは、大きなうずにすいこまれていくような気がして、なんにもわからなくなった。」

   

……これで終わりです。何とも後味の悪い意外な結末であります。
 追われる蜜夫さんをかくまってあげて仕事も世話してあげてビスケット熱を治すために奔走して最後の対決に勝利して逃がしてあげた、あれだけ親切にしてあげたその結果がこれでは何とも理不尽で報われません。
 子ども向けの物語は、いいことをしたら報われて悪いことをしたら罰が当たるという勧善懲悪の教訓的な結末が多いのですが、本作品は斜め上を行っています。
 蜜夫さんもあれだけ尽くしてもらった割には冷たい態度です。仕事が終わってから見舞いに来てくれるのでしょうか。
 しかし、ホットケーキ病とビスケット熱の区別もつかなかった蜜夫さんが今では研究所で人間をおかし人間に変える研究をしているとは、成長し過ぎではないですか。
 実は蜜夫さんと豊さんが入れ替わったというのは読者を騙しているだけで、本当は入れ替わっていないのではないかということも考えられます。
 確かに豊さんは早川くん達と友好的に接していましたが、それは蜜夫さんを助けるためであり、自分の野望を遂げるためにそうふるまっていただけなのではないでしょうか。
 だいたいおかしで人間を作るという研究がマッド過ぎます。豊さんはまさしくマッドサイエンティストそのものではないですか。
 そのマッドサイエンティストたる豊さんが本性を現して早川くんに冷酷な態度を取ってもおかしくはない……と思うのですが、どうでしょうか。
 何ともにんともかんともな終わり方です。すっぱり明らかな結末よりもこういうはっきりしない終わり方の方が記憶に残るのではないでしょうか。いわゆる「余韻」というか「トラウマ」というやつですね。
 本当に国土社の創作子どもSF全集は油断のならない作品ばかりです。本作品も途中までは子ども落語みたいなゆるゆるお笑い系かと思っていたら、最後でひっくり返されました。
 確かにこれを子ども時代に読んでいたら強烈な影響を受けるかもしれません。子ども時代に読んでおきたかったのですが、大人になってから読んでも楽しめます。
 本作品の著者・杉山径一さんは他にもトラウマ的な作品を描いているそうです。
 先日読んだ『遠くまでゆく日』の三田村信行さんもそうですが、他の作品も読んでみたくなります。
 しかし本書の「あとがき」は、とても子どもに向けて書いたものとは思えません。自分の頭の中で考えた創作過程をつらつらと書かれています。「古典落語にある『根問い』の方法を、じぶんにむけて応用してみる必要があります」と書かれています。だからやはり本作は落語を意識して描かれたんだなとは思うのですが、結局どういう意味なのかよく分かりません。

 いや~世の中にはまだまだ知らない作品が埋もれているのですね。
 さてその後、早川くんはどうなるのでしょうか?豊さんの研究は?そしておかし人間・蜜夫さんのその後は?
(ここで「怪奇大作戦」の「恐怖の町」を入れてエンディングとしたいところです)(2022.02.13)

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