深海の宇宙怪物 (SFこども図書館 3)

(あらすじ)
宇宙から飛来して深海に居座った異星からの招かれざる客!
やがて奴らは人類への攻撃を開始する!
失敗から学んだ人類は反撃を開始!
一旦退却した奴らは恐るべき方法でさらなる攻撃を再開したのだった!

(感想)
結局正体が分からない敵というのは斬新です。
しかし物語としては、敵は姿を見せないし敵の戦車との戦闘シーンもも必要最小限にしか登場しないので、展開は比較的地味です。
宇宙人に侵略されている地球の人々も、お互いが足の引っ張り合いをしたり先の読める科学者を批判したりしています。
一致団結して宇宙人と戦う全面戦争という活劇ではなく、世界中の人々の動きを大局的に描写しています。
これがジュブナイルSFやエンタメ映画だとしたら、主人公が敵の基地に潜入したり敵を生け捕ったりして大活劇が展開されるところです。
宇宙人との戦闘メインというより、地球人同士の心理や行動中心をシミュレートした大人向けのSFといったところでしょうか。
主人公夫婦は侵略者による攻撃の現場に居合わして危機に陥るのですが、二人とも絶体絶命の危機を切り抜けます。
二人助け合ったから助かったという理想的な形です。

訳者の斎藤伯好さんの解説によると、著者のウィンダムは日本びいきということです。
そのため本作品でも日本について言及があったり、日本人による発明が描かれたりしています。
ウィンダムは1903年生まれ。
イギリスと日本が戦争していた時期は40歳前後です。
WW2があっても日本びいきの親日家のようです。
そのせいか、日本ではウィンダム作品は人気で、翻訳も沢山出ていますね。

しかし、物語のその後が気になります。
日本人が発明した秘密兵器でめでたく解決するのでしょうか。
生き残った敵が数年後に再び反撃を開始しないのでしょうか。
さらに、奴らの母星にはまだ大勢の仲間がいるのではないでしょうか。
奴らは地球を執拗に狙っているのではないでしょうか。
まるで地球を執拗に狙い続ける、あのバルタン星人のように……。

長新太さんの挿絵は、とぼけたような味わいですが、意外と破滅SFとマッチしています。
そういえば『ついらくした月』の挿絵も長新太さんでした。
しかしそれにしても、表紙のオヤジは一体誰なんでしょうか。
主人公のマイク・ワトソンや天才科学者ボッカーのイメージではないように思います。
見たところ水夫のようですが、完訳版を読んでみても主要人物に思い当たる人はいませんね。
脇役の水夫を描いてみたのでしょうか。
まあそれを言うと、星新一訳のハヤカワSF文庫の表紙も物語とは関係ないようなイメージ画ですが。

巻末の解説では、宇宙人との戦いをテーマにした幾つかのSF作品が紹介されています。

ウェルズ『宇宙戦争』
ジャック・フィニィ『ぬすまれた町』
ラッセル『見えない生物バイトン』

ジュニア向けSFの解説ではこのように、ブックガイド的な記述が多かったように思います。
かつての少年少女はそんな記述を読みながら他の書を読んだ気になりSFの知識を増やしていったのです。

私がSF好きになったきっかけは、小学校の図書室で借りた『怪奇植物トリフィドの侵略』。
トリフィドについては完訳版も含め何度も読みましたが、同じ作者による『海竜めざめる』は星新一訳版を1度読んだきりで、しかも記憶に残っていませんでした。
今回両方読み比べてみて、斎藤さん訳の抄訳は重要な骨組みを余すところなく十分に掬い取っていると感じました。
原作は地味目な展開なので、読書する時間も余裕も取れない社会人にとっては、斎藤抄訳で十分楽しめると思いました。
今後はジュニア向けSF全集を利用して気軽にSF作品に親しんでいこうと思います。

  海竜めざめる 星新一訳新旧
  『海底の怪』国松文雄訳 元々社〈最新科学小説全集 第4〉
  ボクラノエスエフ 近い過去に潰えていた夢

SFこども図書館 は 冒険ファンタジー名作選 として復刊されました。

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