超世界への旅 日本のSF短編集

超世界への旅 日本のSF短編集
 福島正実・編 中山正美&斎藤和明・絵
  SF少年文庫(SFロマン文庫)17 岩崎書店 1972年

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【収録作品】
遠くはるかに 福島正実
少女 眉村卓
あばよ!明日の由紀 光瀬龍
無抵抗人間 石原藤夫
色盲の町 中尾明
わたしたちの愛する星の未来は 北川幸比古
サイボーグ 矢野徹
白いラプソディ 福島正実
ぼくたちは見た! 眉村卓
悪魔の国から来た少女 福島正実
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 岩崎書店SF少年文庫(SFロマン文庫)について、先日『時間と空間の冒険―世界のSF短編集』を読みました。
 今回、それの姉妹編として、日本のSF短編集版を借りてきました。

「この短編集で、とくに前の本とちがっている点は、すべての作品が、少年少女の読者のために書かれたものであることです。といっても、内容的には、すこしも大人のために書かれた前の作品群と変りはありません」

と編者の福島正実さんは書かれています。
 確かに、大人になった今読むと、『時間と空間の冒険―世界のSF短編集』と比べて少し物語のスケールがこじんまりして物足りないという感が無きにしも非ず。
 とはいえ青春時代の独特の感性に訴えるような懐かしさも感じられます。
 そもそも本シリーズは小中学生を対象に企画されたものだから、ジュブナイル作品中心に編むのはもっともなことです。
 私も中学生時代に本書を読んでいれば、もっと楽しめたと思います。
 そしてジュブナイルSFと一般向けSFの違いはどこにあるのかということを考える上でも興味深いと思います。
 ともかく本書もなかなか興味深い作品集なので、順に紹介していきます。

【遠くはるかに 福島正実】
 電話の混線によりパラレルワールドに住む少女とつながった!
 その世界では武力による反乱で内戦状態にあり、少女の家族も危機にさらされていた!!
 
……安保反対デモが盛んだった時代に書かれた作品のようです。
 当時は政治の季節で反体制運動が盛んで殺伐としていたんですね。
 翻って現代を見れば、一周回って独裁的・軍国主義的政府やその支持者による「白色テロ」「反体制派言論弾圧」の危険性を感じる時代になっています。

【少女 眉村卓】
 その日、中学生の青山伸一郎は朝から変な少女につきまとわれていた。変な服を着たその少女は他の人間には見えないようだった。その少女の正体は……?
 ジュブナイル小説らしい展開とオチ。
 少年時代に読んでいたら面白く感じたと思います。
 
【あばよ!明日の由紀 光瀬龍】
 戸沢章二はなぜか同世代の少女・逢坂由紀と身体が入れ替わってしまう。
 由紀と遭遇した章二はこの原因を調査し、謎の降霊術師ルイ・オサリバンに原因があると突き止める。オサリバン宅に乗り込んだ二人だが……?
 
 これはよく分からない。尻切れトンボで説明不足で伏線回収に失敗しています。
 読み手が想像する楽しみ、と言えば良く聞こえますが、あまりにも説明不足が過ぎて無責任とも言えます。
 ジュブナイル作品としてはそういった整合性を楽しむのではなく、主人公と複数登場する美人女生徒との関係性を楽しむ作品なんでしょうか。
 実際、ネット上を検索するとこの作品の回想が意外と多く、そういう方面でドキドキしたというような感想が多く書かれています。

【無抵抗人間 石原藤夫】
 確か高校生の頃、SFの本の解説だかSFの本の紹介の記事で、石原藤夫さんは作家でもあり学者でもあって科学の啓蒙書も書いている、というような記事を読んだことあります。
 講談社のブルーバックスでは都筑卓司さんと石原藤夫さんの著書が読みやすく面白いので推薦する、というような記事も読んだことあります(確か速読受験術の本だったか?)。
 それらを読んで私も読みたいと思いましたが、残念ながら精神を病んで読書すらできない精神状態に追い込まれて読むことできませんでした。
 今回初の石原藤夫作品なのですが、少々小ぶりで小ネタ的な作品でした。
 それこそ科学の啓蒙書の片隅に付録として掲載されているようなイメージ。

【色盲の町 中尾明】
 光化学スモッグにより人々が色盲となり、色の区別がつかないようになっていく過程を淡々と記述する作品。
 最後どう解決するのか、どんなオチがつくのかと思っていたら救いなく終わってしまいました。
 ネット上のレビューを拝読すると、「破滅SF」というジャンルのようです。
 
 中尾明さんといえば、ジョン・ウインダム『怪奇植物トリフィドの侵略』を訳された方です。そのトリフィド的世界感を思わせる作品です。

 中尾明さんのジュブナイルSFといえば、鶴書房SFベストセラーズから『黒の放射線』『いて座の少女』という作品が出ていて、これらもパニックSFでした。中尾さんはパニックSFが得意だったのでしょうか?

 また、ジュブナイルではありませんが福島正実さんにも大気汚染をテーマにした『沈黙の夏』という作品があります。
 山のふもとの町に住んでいた私には実感できなかったのですが、当時は大気汚染は深刻だったのでしょうか?最近はあまり聞かれませんね。

 
【わたしたちの愛する星の未来は 北川幸比古】
 地球とほぼ同じ環境で同じような人類が存在する惑星が発見された。
 地球防衛軍は地球の安全のために宇宙戦争の開戦を主張する。
 地球政府は与論集計網により地球の人々の意見を集計することにした。
 
 地球の一般庶民の色々な意見が集められています。
 この作品の執筆当時の政治の理想はトップダウン型ではなく、国民の意見を広く聴くボトムアップ型が理想だったのでしょうか。
 また、2026年現在の日本も世界も排他的な思想が猛威をふるっていますが、当時は国際化や共生が一般的だったのでしょうか。
 そもそも作者の北川幸比古さんはリベラルな問題意識を持った方だったようです。
 しかし、現在の殺伐とした世界では本作品と結論が違ってくるような気がします。

【サイボーグ 矢野徹】
 サイボーグになった時人はどう考えるのか?サイボーグと人の共生はできるのか?
 サイボーグの悩みについては『サイボーグ009』にも繰り返し描かれていました。
『遠くまでゆく日』『チタンの幽霊人』など、初期のSFではサイボーグの悲しみが描かれます。
『銀河鉄道999』は機械化人間というのが登場します。確か金持ちが金を出して改造していたのではないでしょうか?

辺境の小惑星への移住!希望か絶望か!?野性的デビュー作!! 三田村信行『遠くまでゆく日』

https://sfclub.sakura.ne.jp/21csf01.htm

【白いラプソディ 福島正実】
 保少年は家庭教師の大学生・根本さんと登山する。そこで雷に撃たれた保は過去にタイムスリップする!彼は雪山で遭難した根本さんの恋人・和子さんを救えるのか!?
 
 教訓的なストーリー。道徳や宗教とコラボした道徳SF・宗教SFみたい。
 昔、早起きしたいのにできなかった頃、ラジオを目覚まし代わりにかけていたことがあります。起きられないので半分眠りながら延々と聞き続ける無間地獄みたいな状態で、今でも嫌な思い出です。
 その時かかっていた番組で、とある宗教団体が提供していた「心●い●い」という番組がありました。
 ちょっとしたいい感じのドラマの後、法話が入るのです。
 なんかそれを思い出しました。

【ぼくたちは見た! 眉村卓】
 高校の校庭にUFOが着陸した!見物に出る教師や生徒。高津先生を始め数名の教師や生徒達が中に囚われる!1分足らずの間に彼らは解放される。円盤の中で彼らは2時間以上も滞在し、円盤の中を見学したという。
 警察やマスコミがやって来たがこの事件は何の証拠もないので信用されなかった。
 数週間経ち、何事もなく忘れ去られるかに見えた事件であるが……?
 
 確かSFベストセラーズのどの巻かの解説で福島正実さんはジャック・フィニイ『盗まれた街』を「隣人テーマ」として紹介していたように思います。それを思わせる作品。
『盗まれた街』では主人公は抵抗して抵抗して抵抗して、とにかく抵抗します。それが狩猟系・肉食系の欧米人の思考なのでしょう。
 本作品はなかなかあきらめのいい結末です。これが東洋人の諦観なのでしょうか。

【悪魔の国から来た少女 福島正実】
 世界中の超能力者が手を組んで人類支配に乗り出した!飛行機や鉄道の事故が多発し、世界中で紛争が発生する!果たして人類の未来は……?!
  
 福島正実さんというと、超常現象を否定した『異次元失踪』のイメージが強烈にあります。

異次元失踪 福島正実 SFの約束を破った問題作!あまりの結末に呆然……


 しかし本作品では主人公・木山が体験した超常現象について、友人の野田も野田の知り合いという警察官も信用し、捜査網が張られたりします(良かった)。
 超能力者が人類に対し敵対するというのは、ステープルドン『オッド・ジョン』の新人類達をもっと過激にしたようなものでしょうか。
 本当に超能力者がそのためにまとまっていたら大変なことになっていたでしょうが、やはり違う考えの持ち主がいるようで……。
 超能力者の超能力が現水爆実験でばらまかれた放射能によって強化された、という設定は興味深い。(20260211)
https://sfklubo.net/odd_john/ 

(なお、アイキャッチ画像は 斜陽館 様から拝借しました)

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