辺境の小惑星への移住!希望か絶望か!?野性的デビュー作!! 三田村信行『遠くまでゆく日』
★遠くまでゆく日 (創作子どもSF全集 13)
三田村信行・作
菊池薫・絵 1970年
★ ☆ ★ ☆ あらすじ ★ ☆ ★ ☆彡
西暦2100年に勃発した10年に及ぶ核戦争のため、地上の世界は荒廃してしまいました!
人々は地下に避難して生活しています!
しかし木星や土星など太陽系内の惑星や衛星の開拓は進行し、金をためた者から順に移住していったのです!
水曜日はおわかれの日!毎週水曜には地球脱出が決まったクラスメートとのお別れ会があるのです。
その日、ユタカは親友のヒロアキが木星のベータ地区への引っ越しが決まったことを知ります!
ヒロアキは思い出の記念に地上探検を決心していました!死の世界となった地上に出ることは禁じられているのです!しかしこの機会は最初で最後の千載一遇の好機!行くべきか行かざるべきか、それが問題だ!!
……と結局ユタカも同調し、着いていくことになります!しかしそれが大きな運命の分かれ道!好奇心が招いた二人の冒険は思いもよらない結果をもたらし、ユタカ一家の運命も大きく動いて行くことになるのでした……!!!
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆彡
【辺境の小惑星への移住!これは希望か絶望か!?怖い者知らずの野性的デビュー作!!】
これが作者のデビュー作のようです。デビュー作だけあって、まだ洗練されていないというか、野性的です。
禁じられた地上では地上に取り残された凶悪なサイボーグ達に囚われます。サイボーグ達の独立運動がテーマなのかと思えばそれは尻切れトンボに終わり、後半はユタカ君一家の惑星開拓の話になります。
何とサイボーグ達とのトラブルに巻き込まれて負傷したお父さんは保証金をもらい、そのお金で冥王星の近くの無人のロプロプ星を購入することができたのです!人間万事塞翁が馬ですね!
しかしよく考えると、今まで誰も買わなかった太陽系のはずれの辺境です。そんなとこに家族3人で移住してもまるで島流しであり、漂流記です。俊寛も十五少年漂流記もスイスの家族ロビンソンもふしぎな島のフローネも島を脱出して元の世界に帰ることを望んでいたのではないですか!?
現実的なことを言うと、病気になったらどうなるのでしょうか?医者も病院もないんですよ。
ユタカ君も将来どうなるのでしょうか?学校も就職も、田舎から都会に行くというレベルではなく、太陽系の辺境なんですから。結婚問題も大変です。
……と一応現実的にコメントしてみました。
しかし隠遁・蒸発願望があって野垂れ死にが理想と思っている私としては、こういうシチュエーションはいいと思うのですが。
で、楽観的なユタカ君やお父さんはあっけらかんと境遇に適応して、怪鳥ロプロプを退治したり人とコミュニケーションが取れる変な草・ロプロプ草と仲良くなったりして開拓に乗り出します。
(『バビル二世』の連載開始は1971年
[wikipedia:バビル2世]
作者自身が楽観的なのでしょうか。最後には地球に置いてきたはずのむかしロボット・ベンケイも押しかけてきてお母さんも元気を取り戻し、仲良く惑星開拓に取り組むことになります。
前半に描かれた地球の状況や地上のサイボーグの独立運動など、非常に暗い世界観でどうなるものかと思ったのですが、後半は非常に明るい展開になります。何より旧式のロボット・ベンケイが良きコメディリリーフとなっています。
それで結局、ユタカ君一家のその後はどうなるのでしょうか?
そこを考えさせるのがジュヴナイルSFなのです。
当時本作品を読んだ子ども達はその後をどう想像したのでしょうか?
いくら頑張ってもたかが3人ではコミュニティの存続は無理ではないでしょうか?
こんなんやったらいずれ全滅やな……と子ども時代の私なら思っただろうと思います。
しかしそれは典型的な貧乏人・資本主義時代におけるカモの発想ではないでしょうか。
だから私は本質的には貧乏人・カモであるわけです。
ところが最近、午堂登紀雄さんなどのお金儲けがうまい方の本を読んで、お金儲けとはこのようにするのかと目から鱗状態です。
OLDIES 三丁目のブログ
グーグル検索だけでお金持ちになる方法 午堂登紀雄
https://diletanto.hateblo.jp/entry/2019/01/05/091435
知っている人だけ得をする ローン0円住宅のつくりかた
https://diletanto.hateblo.jp/entry/2019/08/30/064741
ユタカ君一家は曲がりなりにも土地を持ちました。立派な地主さんです。
よってこの星を開拓して住める状態にした暁には分譲したり賃貸したりできるわけです。
地球には地球を脱出したくてもできないお金が足りない人々が沢山残っているのです。
そんな人々に土地を安く提供できれば大儲けではないですか!
移住者に若い女性がいればユタカ君の結婚相手も選び放題です。
……とこんな虫の良い想像をしたのですが、お金儲け本に影響されすぎなのでしょうか?
【つながる作品・芋づる読書法】
本作品は作者のデビュー作のようで、色々な要素が未成熟のまま詰まっているように思います。
例えば、ネット上でこのようなコメントを見つけました。
「香山美子『宇宙バス』にも通じる“他天体への移住モノ”なのか、一昨年前(‘68)公開された映画『猿の惑星』のミュータント族や同時期『少年ジャンプ』で連載された小室孝太郎『ワースト』のワーストマンを思わせる次世代の地球管理種族であるサイボーグ共和国との“民族間抗争モノ”なのか、『宇宙家族ロビンソン』やその日本版『こちら惑星0番地』のような“惑星開拓モノ”なのか・・・どうもはっきりしない。」
http://futabk.blog1.fc2.com/blog-entry-406.html のコメント欄より
私も色々な作品を思い出しました。
人類に放置されたサイボーグが反乱するという面では、『チタンの幽霊人』(1968年)
瀬川昌男『チタンの幽霊人』
http://sfclub.sakura.ne.jp/21csf01.htm
住めなくなった地球を捨て宇宙に移住している
佐野美津男『原猫のブルース』(1977年)
http://sfclub.sakura.ne.jp/sano02.htm
地上を放棄し地下に住んでいる
手塚治虫『火の鳥 2・未来編』(1968年)
https://diletanto.hateblo.jp/entry/2019/03/06/210043
小惑星を購入する
手塚治虫『火の鳥 6・望郷編 』(1978年)
https://diletanto.hateblo.jp/entry/2019/05/22/064124
あと、むかしロボット・ベンケイは、石川英輔のポンコツロボットシリーズでしょうか。
SF創成期。お互い作品を読み合って影響し合っていたのかもしれませんね。(2021.12.05 sun)
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