20世紀少年少女SFクラブ > 記事一覧 > 【国土社創作子どもSF全集】 > あの家の玄関は別世界への入り口!?香山美子『プラスチックの木』

あの家の玄関は別世界への入り口!?香山美子『プラスチックの木』


プラスチックの木 (創作子どもSF全集 15)
 香山美子 (著) 杉浦範茂 (絵)
※なお、上の表紙画像は 復刊ドットコム様から拝借しました。
 
★ ☆ ★ ☆ あらすじ ★ ☆ ★ ☆彡
 
 フジオくんとユウジくんが団地の駐車場でキャッチボールをしていると、いつも近くの一軒家の2階の部屋から二人を眺めている謎のお兄さんがいるのです。誰だ!

 その家はカトウさんの家で、若い夫婦と幼稚園に行っている男の子が住んでいます。近所の人のうわさでは、お兄さんは浪人生なんだろうということでした。
 やがて二人はお兄さんと話す仲になり、ユウジくんはお兄さんを訪ねます。すると、カトウさんの家の玄関は別世界の入り口となっていたのです!
 逃げ帰ったユウジくんからその話を聞いたフジオくんは好奇心を募らせます。
 そして、お兄さんからお別れを告げられた時にフジオ君のとった行動は……!?
 
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆彡 

【感想:あの家の玄関は別世界への入り口かもしれない!?科学文明への警告と好奇心と勇気と行動力の物語!!】
 
 この作品の面白さは、他人の家が別世界と通じていたというアイディアです。
 もし私が本作品を子どもの頃読んでいたら、色々と空想を募らせていたことでしょう。
 よく考えると、人間の家族もそれぞれなのだから、家の玄関は別世界への入り口だというのはその通りですね。
 大人になって色々と悲惨な事件のニュースを見聞きした今、それは知りたくない悲しい別世界への入り口でもあり得るのだと分かりました。

 しかし何で一般庶民の家の玄関が別世界への出入り口となっているのか、その家でお兄さんはどのように暮らしているのか、詳しい説明はありません。まあ細々としたことは読者の想像に委ねた方が記憶に残るのかもしれません。
 お兄さんの説明によると、お兄さんの生まれた星では想像するだけで物事が実現するので人間が実際に何かをすることはなくなっているようです。そこでお兄さんは昔のように人間が当たり前のように行動している世界を観察するために地球にやって来たということです。
 あとがきを読むと作者の香山美子さんは、暴走する科学文明について問題提起をするためにこの作品を描かれたということです。
「四年の学習」の18枚ほどの短編『ストローの木』を加筆修正したものだということです。
 当時の読者の子ども達に「暴走する科学文明云々……」という意図が的確に伝わったのかどうかはよく分かりません。
 お兄さんが住む世界は、科学が行き過ぎた世界というより、私がどこかで読んだことある「極楽の世界」に似ています。
 私が読んだところによると極楽の世界では何でもイメージした通りに実現するそうです。
 そのような生活を続けていると物足りなくなって修行にならないのでやがてこの世に修行しに生まれてくるそうです。
 果たしてお兄さんが住んでいるのはどのような世界なんでしょうか。
 何にしろ、未知の世界が知りたくて飛び込んだフジオ君の好奇心と勇気と行動力はすごい。それでこそジュヴナイルSFの主人公です。1970年代当時もそうでしたが、いつの時代の少年少女もそれらのことは忘れてはいけません(当然かつて少年少女だった我々も)。
 そして、お兄さんと別れるに当たってフジオ君はある想像物を置き土産に置いていきます。これは彼なりの知恵でしょう。
 そしてそれは清く正しい児童文学作家であった香山美子先生らしい結末です。もちろん本作品は「創作子どもSF全集」という子ども向け作品として描かれたものであるから当然のことなのですが。
 しかし、大人になってから読み返すと、いきなり子どもを与えられるよりもつくるところから始めてみたい……とアダルトな方面に想像が飛んでしまいます。いやあ、大人になってから児童文学を読み返すと本当にとんでもない方向に飛んでしまいますね。(2021.11.23)

【追記】
 フジオ君が置いてきたのは、フジオ君とユウジ君にそっくりの男の子です。
 自分にそっくりな子を置き土産に置いていくとは、相当自分に自信があるのでしょうか。
 私なんか自己嫌悪の塊で、いつも消えてしまいたいと思っているくらいだから、自分に似た人間を想像して置いていくという発想は絶対に出ないと思います。
 いや、自分は失敗したけどこの世界で新しくやり直して幸せになってくれ、という意味でなら置いて行けるかのう。
 それはともかく、香山さんは本質的にプラス思考で自分に自信がある方なのでしょう。その香山さんが描く主人公なのだから、フジオ君もプラス思考で自分に自信があるのでしょう。


 
「フジオくんがつくったふたりだけど、ふたりはほんもののフジオくんやユウジくんそっくりに、てきとうにいたずらで、てきとうにわんぱくで、てきとうにできがいいにちがいありません。」
 
「ぼくのつくったぼく。それからユウジ。ふたりともいつまでもぼくのように、ユウジのように、やれよ!がんばって、やれよ!」
 
……と、かなりプラス思考な展開です。
 この国土社の創作子どもSF全集には、子ども達にトラウマを残すような作品も多いのですが、この作品は非常に前向きです。
「あとがき」で香山さんは、科学文明の暴走への問題提起のために書いた、と述べられています。
 ところが、作品の方向性や主人公の性格はかなりポジティブで前向きなのです。
宇宙バス』でもそうでした。
 このポジティブで前向きな姿勢は香山美子さんの特徴なのでしょう。(2021.11.25)

編集後記&参照リンク集&コメントコーナーなど
↑ご意見ご感想お寄せ下さい

【トップページに戻る】
20世紀少年少女SFクラブ
【ブログもやってます】
SF KidなWeblog
快眠・早起き朝活・健康生活ブログ
少年少女・ネタバレ談話室(新)(ネタバレ注意!)
【Twitterもやってます】
市井學人(20世紀少年少女SFクラブ)

おすすめ記事

サイト内検索

ligiloj

arkivo

anoncoj

SNS

↓とりあえずランキングに参加しています

ページTOPに戻る