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イラストで描くヴェルヌの【月世界旅行】

  ★月世界旅行 (Newton CLASSICS Illustrated)

 ニュートンクラシックスイラストレイテッドの中の一冊。
 ウィキペディアによるとヴェルヌの月世界をテーマにした作品は
前編(地球から月へ、月世界旅行)
と後編(月を周って、月世界探検、月世界へ行く)があるようです。
 そのウィキペディアの記述と見比べると本書は大砲クラブの面々が月世界に行く計画を立ててから実行し地球に帰還するまでの全編を描いています。膨大な原作をわずか50ページにも満たない劇画で描くという密度の濃さ・情報量の多さです。決闘騒ぎからロケット内部の出来事までうまく紹介されていて原作を読んだ気にさせられます。
 さらに20ページに渡ってSF作家グレコリー・フィーリーによる充実した作品解説と作者紹介も収録されています。解説マニアの私も満足の充実した解説です。
(そもそも日本の文庫本の解説のレベルは低すぎます。わずか数ページ、それも作品内容や作者に関係のない執筆者の軽い身辺雑記みたいなのが多すぎます。)

 それでこのフィーリーさんの解説では、アメリカでのヴェルヌの翻訳は質が良くない、と書かれています(本書はアメリカで出版されたシリーズです)。
 ヴェルヌのアメリカでの翻訳は子ども向けの抄訳が多く、粗削りであり、現在入手できるのは古い翻訳ばかりで新訳は少ないということです。その例外としてWJミラー『詳注版月世界旅行』が挙げられています。これは日本でもちくま文庫で翻訳されました。本家フランスの本ではなくアメリカでの翻訳版だったんですね。

 それはともかく、意外とアメリカではヴェルヌ紹介は乏しいようです。それに比べると日本は日本ジュール・ヴェルヌ研究会の活発な活動もあるし、恵まれているのではないでしょうか。

 解説ではヴェルヌ以前に描かれた月に行く小説についても触れられていて、ダニエル・デフォーやEAポーも描いていたそうです。

デフォー『コンソリデーター』
ポー『ハンス・プファアルの無類の冒険』

 ヴェルヌの人相研究についての記述もかなり詳しく記されています。ヴェルヌの時代には人相学は時代遅れになりつつあり、

「人相学と骨相学に対するベルヌの明らかな熱意は、彼が技術工学や自然科学の分野に比べると医学分野では最新情報にうとかったことを示している」

と結論付けられています。
 
 また、砲弾船の内部にトイレの記述がない件について

「上品さを重んじる当時の風潮から省いた」
とも書かれています。
 私もトイレが近いのでトイレについては気になるたちなので、過去のヴェルヌ作品にトイレが登場しない件については今までも何度か指摘してきました。おそらくそうなんだろうとは思っていたのですが、はっきりと書かれていてようやく納得です。
……とまあ、充実した解説で読み応えあります。
 さらに巻末には本書の劇画部分のセリフの対訳も掲載されています。英語の勉強にもなるという親切な編集です。
 ということで、なかなか素晴らしい本でした。

     

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