亀山節炸裂!『皇帝の密使』岩崎書店ベルヌ冒険名作選集版
私は先に、ジュール・ヴェルヌの『皇帝の密使』について4冊のバージョンを借りて読み比べてみました。
敵中横断六千粁!皇帝の密使ミシェル・ストロゴフ
https://sfklubo.net/michelstrogoff/
ヴェルヌ『皇帝の密使ミシェル・ストロゴフ』編集後記&参照リンク集&コメントコーナーなど
https://sfkid.seesaa.net/article/479828577.html
国際児童文学館ではもう一冊、岩崎書店ベルヌ冒険名作選集版が保管されていました。
これは貸し出しができないので、後日閲覧してざっと読んできました。
皇帝の密使 (岩崎書店ベルヌ冒険名作選集2)
亀山龍樹・訳 白木茂・編集 白井哲・装幀 武部本一郎・絵
1959年 初版 1964年12月 4刷
児童書とはいえ、結構字が細かくページ数もあるので読み応えあります。
45字×17行 1段組ですが200数ページあります。
亀山龍樹さんが訳していることもあって密かに期待していたのですが、想像通り最高の翻訳でした。
もちろん物語の骨子はほとんど拾っていて、大きな省略や改変はありません。
亀山さんの真骨頂は、生き生きした会話にあります。
亀山さんには落語や講談などの大衆文化の素養があるのでしょうか。
特に庶民同志の会話では、江戸っ子が啖呵を切っているような非常に生き生きした会話文として翻訳されています。
これが亀山節とでもいうのでしょうか、流暢ではじけています。
亀山版の隠し味として、原作にはない伏線的な描写が挿入されていることです。
主人公のストロゴフは途中、敵につかまって目を焼く拷問にかけられます。
その後盲目となってもイルクーツクまで行くのですが、実は目は焼かれていなかったと判明します。
原作では本当に目が見えないようになったように描かれ、唐突に実はそうでなかったと判明します。
しかし本書ではミステリー小説の翻訳も多い亀山さんの本領発揮で、実はストロゴフは目が見えているのではないかと思われる描写が何度か描かれています。
それで、先に4種類の版の違いを比べた個所について本書でも調べてみます。
まず、ストロゴフとナージャがタタールに捕らわれた時、タタール兵がナージャに何かしたために怒ったピガソフがタタール兵を殺害するいきさつについて。
本書では偕成社の野田開作版と同じ展開となっています。
完訳版では乱暴した兵士一人を殺しただけなのですが、子供向け翻訳の本書では3人撃ち殺したことになっています。
歴史上の出来事が語り継がれることによって尾ひれがついて話が大きくなっていくことの実例を見ているようです。
また、本書でもボリショイ門の表記は「ボルチャイア門」となっています。
また、偕成社の野田版では大公殿下が『三国志』に登場する軍師のような作戦でボリショイ門を開き、タタール兵を全滅するというオリジナル展開がされていると紹介しました。
亀山版では何とストロゴフが名軍師の役割を果たして大公殿下に策を進言し、成功させています。
「ぎゃくに、敵をだますんです。せっかくオガレフが、ここまで、おぜんだてをこしらえておいて、くれましたからね。つかわないのはもったいない」
しかしこのセリフ、読点が多すぎるし少々回りくどい。亀山さんとしては少々出来の悪いセリフです。
他の会話文はもっと流暢ですから。
で、この作戦が当たってタタール兵が混乱する中、ジプシーのスパイ女・サンガールが死ぬ場面も描かれています。
ミステリー畑の亀山さんだから、きっちりと伏線は回収して登場する悪キャラの最後まで記述しているのです。
また、主人公チームと仲良くなって虐殺されてしまったピガソフについて亀山さんは非常に同情されたようで、原作にはないオリジナルシーンを挿入して彼を哀悼しています。
まず、ストロゴフとナージャが大公殿下に面会してナージャと父親が再会した時、ストロゴフがピガソフのセリフを思い出して回想します。
「あんたたちが、おとうさんにあうときには、わしもそばにいたいものだな」
最後にストロゴフとナージャがモスクワに向かう途中、ピガソフの墓を墓参りするシーンがあります。
このシーンで、ピガソフのキビッカ(馬車)と愛犬のセルコが天国をトコトコと走っているだろう、というオリジナルシーンがあります。
また、本書の解説では
「本作品は今までに3回映画化された」
と書かれています。
その後も何度か映画化されているようです。
その参照リンクについて、ブログでリンクしています。
名作文学の子供向け翻訳は、古典落語や古典講談の再演のようなものではないでしょうか。
古典落語や古典講談を演ずるといっても、そのまま語っているわけではありません。
完訳版なら表現に少しの違いはあるのですが、流れとしては原作に忠実に翻訳しています。
ところが少年少女向けの抄訳ではどこを取捨選択するかによって大きく違ってきます。
演者によって少しづつ語り方が違ってくるのです。
亀山さんはその中でも非常にオリジナリティあふれる演者かと思われます。
ということで、今回読み比べた5つの版の一番のおすすめは、この亀山版なのです。
みんなみすべくきたすべく
亀山龍樹訳
http://caliliro.blog.fc2.com/blog-entry-1183.html
↑亀山師匠訳『宝島』が紹介されています。
敵中横断六千粁!皇帝の密使ミシェル・ストロゴフ
https://sfklubo.net/michelstrogoff/
ヴェルヌ『皇帝の密使ミシェル・ストロゴフ』編集後記&参照リンク集&コメントコーナーなど
https://sfkid.seesaa.net/article/479828577.html
アフリカ横断飛行(気球に乗って五週間)
亀山龍樹がユーモアたっぷりに超訳!!
http://sfclub.sakura.ne.jp/vkagaku05.html
岩崎書店 ベルヌ冒険名作選集 全12巻 1959-1961年
https://sfklubo.net/iwasaki_verne/
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