ロボットFの献身【孤島ひとりぼっち】矢野徹
★孤島ひとりぼっち
矢野徹・作 梶鮎太・絵 1969年国土社
★ ☆ ★ ☆ あらすじ ★ ☆ ★ ☆彡
貨物船・明神丸はロンドンへ向かう途中、大あらしに巻き込まれ、戦争中に仕掛けられていた機雷にぶつかり座礁します!
生き残った船員はボートで近くの無人島に脱出しますが、あっという間に3人が無くなり、順少年が一人で生活していくことになるのであります!!
順少年は船の残骸の中から荷物を運ぶのですが、その中に新発売された組み立て式ロボットがありました!
孤独な生活の中、順少年はロボットを組み立て始めます!!
大人でも難しいロボットの組み立てに順少年は果たして成功できるのでしょうか!?
そして、順少年は無事日本に帰ることができるのでありましょうか!!!
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆彡
子ども向け小説で無人島に漂着して生活するというパターンは『ロビンソン・クルーソー』や『十五少年漂流記』の古典的作品に始まり、昔は多かったように思います。昔あった小学生や中学生向きの学習雑誌でもその手の物語を読んだような記憶があります。現在はどうなんでしょうか?
それはともかく、本作品はその無人島漂流ものにSF的要素を加えた作品です。SFの世界は科学が進んだ世界であるからして、SF的ガジェットが登場すれば当然解決は早いのですが、そのSF的ガジェットが登場するまでの試練が本作品のキモであり、読みどころとなっています。
私が子どもの頃、「幼稚園」やら「小学〇年生」という雑誌には付録がついていましたが、私は工作が苦手だったらしく、なぜか全然完成させることができずに未完成のまま捨てるのが常でした。読書や作文が好きで得意だった割にはこういう手を使った工作やら美術やらが全く駄目だったのです。だから私がもし順少年の立場だったとしたら、ロボットを完成させられたかどうか分かりません。そこはヒヤヒヤものです。
最初、船から避難したのは順少年と木村さんと鈴木さんと清水さん。清水さんは意識不明のまま死亡。コックの木村さんは明るく皆を元気づけてくれます。ところが鈴木さんはマイナス思考でメンタルをやられて非協力的です。こんな時にこれではいけないという教育的配慮の見本であります。
最後、日本に戻ってからフライデーが決断したあることとは?こんなことまで考えるとは、ロボットの範疇を越えているような気がします。そもそもフライデーは家庭用のロボットという設定だったのでは?本来の自分の目的を否定するような選択です。しかしこの人間を越えたような言動に感動しました。ドラえもんは帰ってきましたがフライデーは帰ってきませんでした。ここが連載物語と読み切り物語の違いであります。
あとがきで矢野徹さんは書かれています。
「運命、かなしさ、負けじ魂、希望、機械と人間はどうあるべきかといったことを、みじかい枚数のなかで、できるだけとりあげたつもりだ。」
また、前書きではこうも書かれています。
「あなたにもフライデーはいる。それは、いろんなことを教えてくれる本だ。たくさんの本を読んで、げんきに生きていってほしい。」
本作品はその後、角川文庫に収録されたようです。図書館で借りてきました。
何と一冊に本作品を含め11編もの短編が収録されています。
文庫本は本当に文字数が多いんですね。
創作子どもSF全集版では梶鮎太さんの挿絵が印象的だったのですが、角川文庫版ではその挿絵が収録されていません。代わりに依光隆さんの挿絵が数枚入っています。
↑依光版のフライデーはスリムなヒューマノイド型です。角川文庫の発行は1981年。『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(1977年)の影響でしょうか?
角川文庫に収録された11編は珠玉のジュブナイルSFです。発想が面白いし感動します。
巻末解説は野田昌宏さんです。
野田さんの甥がお小遣いで最初に買った本が『孤島ひとりぼっち』で、感動して母親にも勧めたそうです。
「子供の頃、はじめて心をゆさぶられた本によって、人は、その知的な一生の方向がきまってしまうといっても言い過ぎではありません」
それに続いて矢野さんの軍隊生活やボイラー室でのSF作品との出会いなど、矢野さんの人生と作品をうまく絡めて解説されています。
「それにしても、
矢野さんの小説に出てくるロボットや宇宙人のせつなさはどうでしょう……。」
「矢野さんが、そんなせつなく、ひたむきで悲しいロボットや他星人の姿に仮託して描いているのは、実は、人間そのもの、人間というものの究極のあるべき姿なのです……。」
確かに、主人公や脇役にはせつない境遇にある人が多いです。作品そのものも物悲しく感動させる作品が多いです。
矢野徹さんというと、私は中学時代に鶴書房のSFベストセラーズ『新世界遊撃隊』を読んだことあります。それはノンストップでハードなバイオレンス作品で面白いけど非常に疲れたという記憶があります。
その後社会人になって本HPを作成してから『超能力部隊』を読みました。これもハードボイルドな作品でした。
だから矢野徹というと、ハードなハードボイルドな作風なのかと思っていたのですが、今回読んだ作品はウェットな作風でした。
野田さんは続けます。
「この本を読んで感動したら、矢野さんの次の本を読んで下さい。<カムイの剣>をまずおすすめします。それから<折紙宇宙船の伝説>、それから……。そして君が翻訳SFを読みはじめると、名作といわれる作品のかなりの数が矢野さんの手になることを知って、君はまたびっくりするでしょう。」
私も小中学生時代に本書を読んでいたら、矢野徹さんの他の作品を探して読んでいたと思います。矢野徹に限らず、もっとジュブナイルSFを読んでおくべきだったと今頃反省しております。
ということで、私は今後もジュブナイルSFを読んで当サイトを更新していくつもりです!応援よろしくお願いします!
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矢野徹【ロボット】ネタバレ検討会
https://sfklubo.blog.jp/archives/17775420.html
↑本作品を加筆修正した作品です。
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