次元パトロール タイム・パトロールではありません
「次元パトロール」です。「時間(タイム)パトロール」ではありません。
本書でいう「次元」とは、今でいう「パラレルワールド」のことです。
タイムパトロールというと、過去に戻って歴史を改竄しようとする悪人どもから歴史を守る話なのですが、「次元パトロール」だと、ちょっと複雑です。
「接時点」とは、未来の歴史を変えるような重大な事件が起きた時、その分かれ目になる事件の起こった場所のことで、その後も時間が重なったまま流れているという。
本書の設定によると、オレーユという老人が住む小さな島が接時点を3つ持っていて、オレーユが次元パトロールの司令官ということになっています。
説明が少なくてよく分からないのですが、主人公のカップルはオレーユ老人に
「これからは、わたしたちのように時間かんし員のひとりとして、はたらいてもらうことになる」
と言われ、物語が始まります。
子どもの頃読んだのなら、ふうんそんなものかと思って疑問に思わず物語の中に入っていけたのだと思うのですが、大人になってから読むと、よく分からない設定です。
こんな不十分な説明で職業を選択してしまっていいのか!という感じです。
「接時点」の設定もよく分かりません。
原作や完訳版ではどう説明されているのか、興味あるところです。
出版社公式サイトの説明では
「三つの世界をまたにかけ、大わらわの活躍。」
と書かれています。
〝大わらわ”とはまた古い表現です。あまり今では使われない表現では?
しかも〝大わらわ”というと、コメディータッチをイメージするのですが、本作品はどちらかというと〝ハードボイルド”な展開です。
(↑……と書いたのですが、〝大わらわ”の由来と正しい意味は?やはり私には面識のない言葉でした。知りたい方は検索してみよう!)
……ということでマック&エルスぺスコンビは、他の2つの世界に行って冒険をします。
タイムパトロールなら歴史改竄を防ぐのが任務なのですが、「次元パトロール」の任務はよく分かりません。
むしろ積極的に介入して歴史をコントロールしています。
復刊版(冒険ファンタジー名作選)・黄色版(SFこども図書館)のタイトルは「次元パトロール」ですが、旧版(SF世界の名作)(赤表紙版)のタイトルは『時間かんし員』。
旧版のタイトルは内容と合っていませんね。
黄色版に改訂する際、改題したのは正しいと思います。
「次元パトロール」の任務は、元来いるその世界の人々による成り行きに任せず、積極的に介入して歴史をコントロールすること。
よく考えると、倫理的にどうなのか。
主人公コンビはオレーユ老人の指示に従ってパラレルワールドの歴史に介入し、歴史を変えています。
このオレーユ老人は一体何の権限があって他の世界に介入しているのでしょうか。
確かに本作品ではオレーユ老人の指示は正しいように思います。
パラレルワールドでのさばる軍国主義勢力を倒し、戦争を防ぐことができました。
人間の世界ではどうしても自分中心的で暴力的・攻撃的な勢力がのさばる傾向にあります。
一般の人は抵抗すると怖いのでそういう勢力に従ってしまいます。
そういう事態を防ぐためには、他の次元からの介入も必要なのではとも思えます。
しかし他の次元の歴史に介入するからには、倫理的・人道的な判断力が必要ではないでしょうか。
もしオレーユ老人のような立場の人間に倫理感が欠けていたら、自分が独裁的な支配者となってやりたい放題になってしまうでしょう。
著者のサム・マーウィンジュニアはアメリカの人物。
確かに彼が執筆活動していた頃は太平洋戦争が終了して米ソ冷戦が激しかった時代。
アメリカも世界の警察官として外国の政治に介入していました。
そういうアメリカ的な世界観も反映されているのでしょう。
それにしても、21世紀も20年近く過ぎた現在。
世界の警察官を自認していたアメリカも馬鹿が大統領になって滅茶苦茶になったし、それをもっと劣化させたような大馬鹿殿が首相となった日本はもっとひどい有様。
もしもオレーユ老人がト〇ンプや安〇晋〇のような人間だったら、一体どんなディストピア物語が展開されていたでしょうか。
本書の挿絵は、旧版は原田維夫さんで、新版は山田卓司さん。
山田卓司の絵はさすがに今風にアップデートされています。
映画でいうと画面を引いた感じで広く場面をとらえていて、マンガを読むようにストーリーがイメージできます。
一方、原田維夫の挿絵は版画です。今の子どもが見ればちょっと怖いのではないでしょうか。
画面はアップ気味で、断片を見ている感があります。
異次元失踪 福島正実
https://sfklubo.net/dimension-disappearance/
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