盗人にも固い友情あり！変な顔でもチャンスあり！？【怪盗の宝（四つの署名）】

20世紀少年少女SFクラブ > 記事一覧 > 山中峯太郎版ホームズ > 盗人にも固い友情あり！変な顔でもチャンスあり！？【怪盗の宝（四つの署名）】

盗人にも固い友情あり！変な顔でもチャンスあり！？【怪盗の宝（四つの署名）】

　
怪盗の宝―名探偵ホームズ (ポプラ社文庫 22 名探偵ホームズ)
　山中峯太郎 (翻訳)　岩田ひろまさ (イラスト)　ポプラ社 (1976/12/1)

　
　例え悪辣な盗人といえども固い友情というものがあったのです。

ジョナサン・スモール
マホメット・シン
アブズラ・カーン
ドスト・アクバル
　
　アグラの盗賊四人組です。シーク教徒である後の３人に英国人のスモールが仲間入りしたのですが、スモールは最後まで他の三人を裏切りませんでした。悪人ながらあっぱれなことです。
　そもそも、シーク教徒の三人は何でスモールを仲間に入れたのでしょうか。わけの分からないイギリス人を仲間に入れても分け前は減るし裏切りされる恐れもあるのに。
　まあここでスモールが死んでしまったらお話にならないので。
　シーク人は一旦誓いを立てると死ぬまで守る人種だと書かれています。
　信用ならないのはイギリス人であって、新たに仲間に入れたショルトー少佐は裏切って宝物を独り占めしようとしました。
　ショルトー少佐は死ぬ前に二人の息子にモースタンに対しては悪かったと反省していますが、ジョナサン・スモールを始めとした４人組に対しては眼中にないようです。最初から４人に対しては騙す気満々だったんですね。
　一方、ワトソン博士と結婚するメアリの父親・モースタン大尉はどう思っていたのかはっきりとは書かれていません。まあ娘のメアリ・ワトソンさんに免じて深く追及しないことにしましょう。
　山中峯太郎版は原作と大きな改変はないのですが、ジョナサン・スモールが語るインド時代の出来事に少し加筆があります。スモールの仲間思いがより強調されていたり、バーソロミウ・ショルトー殺害を悔やんでいたりと、スモールがいい奴になっています。
　原作ではスモールがトンガの船に乗ってアンダマン諸島のブレア島から抜け出す際、他の仲間についてどう思っていたのかよく分かりません。山中版では刑期があと５年ということになっていて、仲間と相談しています。
　また、逮捕された後、未だに刑期にある仲間に事の顛末を知らせてやってほしいとホームズに頼んでいます。
　章の小見出しに「悪人にも友情」となっていますが、山中峯太郎はジョナサン・スモールを悪人ながら天晴れな男として描いているのです。
　
　また、山中版ではワトソン博士はサジアス・ショルトー氏を「へんな顔」「へんな声」と強調して描写していますが、一体どんな顔だったのでしょうか。ショルトー兄弟は双子だったようですが、双子の兄も同じ顔だったとすると、ショルトー家には「へんな顔」の兄弟が二人いたということなのでしょうか。
　ショルトー少佐とモースタン大尉は親友だったらしいですが、もしイギリスに帰国して家族ぐるみの付き合いをしていたら、ショルトー兄弟のうちのどちらか一人とメアリ・モースタンさんとの間にロマンスが生まれるような展開があり得たのでしょうか。
　今回サジアス・ショルトー氏はメアリ・モースタンさんに対して非常に親切だったわけですが、メアリに対して下心あったのでしょうか？もしジョナサン・スモールが現れず従ってホームズやワトソン博士も登場しなかったら、メアリとサジアスとの間にロマンスが生まれる可能性があったのでしょうか？そしてワトソン博士がサジアス・ショルトー氏の顔や声を殊更貶めているのは、潜在的な恋敵だと警戒していたからなんでしょうか？（おおっと！これはシャーロッキアン認定論文にできるのと違いますか？）
　私は、変な顔だけどいい人だったサジアス・ショルトーさんにも少しばかりのチャンスがあったんだと思いたいところです。