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ドイル創作のもう一人の名探偵が共演!ハードボイルド&本格!一冊で二度楽しい【恐怖の谷】


  ★恐怖の谷 名探偵ホームズ全集 (山中峯太郎ホームズ) Kindle版


名探偵ホームズ全集9 恐怖の谷 1956年7月 ポプラ社 有安隆・絵


ポプラ社文庫 名探偵ホームズ 30 恐怖の谷 1976年12月 ポプラ社 箕輪宗廣・絵

★ ☆ ★ ☆ あらすじ ★ ☆ ★ ☆彡
 アメリカの炭鉱町・バーミッサに一人の若者がやって来ました!
 マクマードと名乗るその青年は度胸と愛嬌によって早速町の人気者になります!
 しかしその町は怪首領マギンチイが牛耳る“恐怖の谷”でありました!!
 マクマード青年もマギンチイの組織“スコウラーズ”に加入して悪事に加担し、出世を重ねてマギンチイの片腕の地位を築いていきます!!
 しかし、このような悪の組織のやりたい放題を自由の国・アメリカが許しておくわけにはいきません!
 ニューヨーク中央探偵局から「第一流の名探偵」と言われるバーディ・エドワーズ探偵がスコウラーズ全滅のために派遣されたというのです!!
 マクマードはエドワーズとの対決を決意し、スコウラーズの上層部を集めて作戦を立てます!!
 エドワーズ探偵が勝つか!?それともスコウラーズが返り討ちするのか!?
 生きるか死ぬかの対決は12年後!大西洋を越えて大英帝国において、名探偵ホームズと悪の帝王モリアーティも巻き込んで決着を迎えるのです!
 これぞまさしく正義と悪の英米世界大戦であります!果たして最後に勝って笑うのは誰なのでしょうか!!!
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆彡 
 
 唐突に、発作的にシャーロック・ホームズの再読を始めることにしました。
 山中峯太郎の翻訳版が良くも悪くも名高いということなので、図書館から借りてきました。
 さらに完訳版と読み比べるため、ベアリング・グールドが監修した詳注版も並行して読むことにしました。


  ★詳注版 シャーロック・ホームズ全集〈4〉
 
 当HPではSFの子供向け翻訳と原作完訳との読み比べを大きなテーマとしています。
 山中峯太郎版ホームズと詳注版の読み比べもテーマに沿っていると思います。
 また、一般的にSFとミステリーは読者層も重なる部分が大きいと言われているのでホームズものを当HPで扱っても違和感ないと思います。
 
 さて私のシャーロック・ホームズの読書歴といえば、実はあまりなかったのです。
 小学校の図書室には子ども向け翻訳も入っていたとは思いますが、あまり読まなかった気がします。
 それが中学2年生の頃、宮崎駿監督のTVアニメ『名探偵ホームズ』と英グラナダTV『シャーロック・ホームズの冒険』の放送が始まるというんで、急遽新潮文庫の延原謙版を中心に読んだのです。
 しかしその直後、中学3年にうつ病を発症してあんなに好きだった本も読めないような精神状態になって、そのまま精神状態も回復せずに人生から転落してしまったのでした。当然ホームズ物の再読もかなわず記憶も薄れていったのでした。
 もしうつ病にならなかったらその後も順調に読書歴を重ねて各種パスティーシュ作品やら研究書やらも読んで立派なシャーロッキアンとなっていたと思います。
 50を過ぎてようやく本を読める状態にまで回復したのは嬉しいことです。
 ということで月に1冊づつ、SFと山中版ホームズを読んでいきたいと思います。

 で、再読第一作目に選んだのは『恐怖の谷』。かねてより原典ホームズ物で一番面白くて一番再読したい作品だと思っていたのでした。

 山中版では第一部のイギリス編と第二部のアメリカ編の順序が入れ替わってアメリカ編が先に来ています。
 確かに子どもとしては事件が起こった順番に記述してくれている方が分かりやすい。
 私なんか今でも小説や映画で時間軸が前後すると混乱します。
 
 ホームズがマクドナルド警部やメイソン警部らを連れて夜中にバールストン屋敷を見張りに行くシーンがあります。
 原典では現地で落ち合っていますが、山中版ではその前に全員で食堂に行って腹ごしらえをします。

「とにかく食えるだけ食った。ホームズは、ゆでたまごを六つも、ムシャムシャとたいらげた。家にいても精力さかんで、大食いなのだ。ぼくの三倍くらい、いつも食う。」
 とワトソン先生は書いています。それで、これからどうする予定か説明を求めても
「行ってみるとわかる。フーッ、しかし、失敗するかもしれない。だから、まだ言えないのだ」
 大食いであっけらかんとして愉快なホームズです。こういったオリジナルな創作が蛇足と思われたのかもしれません。私は好きですが。
 
 ポプラ社の単行本版では巻頭に「この物語に活躍する人々」が二つ名付きで挙げられています。
 二つ名を付けて紹介するのは印象が残っていい方法ですね。
「冒険青年マクマード」
「少女エティ」
「豹のボードイン」
「怪首領マギンチィ」
「疑問のバーカ」
「鉱夫スカンラン」
らが紹介されています。
 他、「虎のコーマック」「狼のイラビ」も二つ名を与えられています。こうするとキャラが立ってきますね。

 有安隆・絵

 鉱夫スカンランはマクマードの友達となりルームシェアしている人物です。
 何と『マラコット深海』の主人公三人トリオのうちの一人と同じ名ではないですか。

『マラコット深海』
  https://sfklubo.net/the_maracot_deep/
  https://sfklubo.net/yanagishuji/

 ポプラ社の山中版は単行本版とポプラ社文庫版があります。ざっと見たところ、文面は同じようです。
 ただ最後の一文がポプラ社文庫版では削除されています。
 ワトソン博士がエドワーズ探偵の記録を書き続けたという記述に続いて

「していると、また実に思いがけなく、はるかに遠いアジア大陸から怪事件が、とつぜん、あらわれてきたのである。」
  
 このアジアの事件とは、単行本版刊行時に山中先生が次に出す予定だった『怪盗の宝(四つの署名)』のことらしい。
 ポプラ社文庫版では順番が変わったので無意味になったので削除したのでしょう。しかしこの項の小見出し「アジア大陸から怪事件」はそのまま残っています。
 ポプラ社文庫版には巻末に中島河太郎さんの3ページの解説が掲載されています。本作品には触れずにモリアチイ教授の説明に終始しています。

  有安隆・絵
 
   箕輪宗廣・絵
 
 怖いもの見たさで山中版を読んでみましたが、特に違和感なく読めました。
 山中峯太郎が初期に訳した作品らしいので山中節がまだ抑えめだったのでしょうか、特に違和感なく読めました。
 私が熱心なシャーロッキアンではなく先入観がないというのもあるのかもしれません。
……ということで始めた山中版ホームズの調査。今後も続けていきます。(2022.02.05)


↑ 有安隆・絵  何か普通のおじさんっぽいホームズとワトソンです。

(追記1)山中版ホームズ全集、キンドルで復刊しています。私は図書館で借りてきたのですが、図書館にない地方でも安価で読めることはいいことです。どういったいきさつで復刊したのか分かりませんが、ありがたいことです。また、紙版も作品社から復刊していますね。
(追記2)アイキャッチ画像はポプラ社の単行本版の口絵です。この巻は有安隆さんが挿絵を描いていますが、ひろ坊さんの記述 によると、より古い版の牧秀人さんによる裏表紙のようです。
(追記3)参照リンク集でリンクさせて頂いていますが、山中版ホームズについてはmystery_YM様のブログ『押入れで独り言』が詳しい。私もこのような記事を書きたく思っています。到底そこまではできないのですが、あくまでも理想・目標とさせて頂きます。


   ★名探偵ホームズ全集 第一巻――深夜の謎 恐怖の谷 怪盗の宝 まだらの紐 スパイ王者 銀星号事件 謎屋敷の怪

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