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ヴェルヌ【月世界旅行】月世界最初の観察者


矢野徹・訳 小林与志・絵
学研・少年少女ベルヌ科学名作全集2(1964年)
(なお、表紙画像は こちら と こちら から拝借しました)

 学研のベルヌ全集の一冊です。
 ウィキペディアによるとヴェルヌの月世界をテーマにした作品は
前編(地球から月へ、月世界旅行)
と後編(月を周って、月世界探検、月世界へ行く)があるようです。
 本作品はアメリカの大砲クラブの面々が計画を立ててから実行し地球に帰還するまで描かれています。
 つまり、前編と後編をまとめて訳しています。
 本作品の訳者は矢野徹さん。ヴェルヌに矢野徹とは意外な組み合わせです。
 どうやらアメリカの合本版を訳したもののようです。
 
 先にニュートンクラシックスイラストレイテッド版のグレコリー・フィーリーさんの解説で、アメリカでのヴェルヌ作品の紹介は子供向けの抄訳が多い、ということを知りました。
 
イラストで描くヴェルヌの【月世界旅行】
 https://sfklubo.net/luno1/

 WJミラー『詳注版月世界旅行』でも、アメリカの『月世界旅行』の翻訳事情について批判されています。


 
 ということは本作はこれらの解説で批判されているアメリカの子ども向け翻訳版からの重訳ということになります。
 しかし内容をみるとなかなかどうして、結構しっかりしていて十分に楽しめます。
 『詳注版月世界旅行』と読み比べると、ヴェルヌの原典はヴェルヌのアメリカ風刺や当時の科学や産業の百科全書的記述が多いと分かります。これらの記述は大人になってから読むと非常に興味深いものなのですが、とりあえず子どもにとっては細々としていて面倒くさい記述です。
 つまりヴェルヌの作品は決して子供向けには描かれていません。教養や知的好奇心の高い大人が読むに堪えるだけの情報量がぎっしりと詰め込まれています。
 だからとりあえずストーリーの骨子だけを楽しみたい簡略版の翻訳としっかり内容も楽しみたい完訳版の両方があって、目的によって読み分けられるのがいいと思います。
 そういう意味で、子ども向け抄訳も大人向け完訳も両方楽しめる日本の環境は非常に恵まれた読書環境だと思います。
 
 というわけで学研版の本巻はヴェルヌの上下巻の合本版の翻訳に加えて、宇宙開発に関するノンフィクションも収録されているという豪華版です。もちろんガガーリンやテレシコワの記述は今となっては過去の歴史的事項なのですが、当時としては宇宙に関する最新情報だったのではないでしょうか。人類の発展と未来に対する希望にあふれていた当時の空気感が感じられます。
 この矢野徹版『月世界旅行』はその後、学研小学生文庫高学年版(第一集)に収録されています。ノンフィクション部分も収録されているかどうかは未確認です。

 この学研小学生文庫高学年版、私は第二集を買ってもらったのです。学研小学生文庫は買ってもらった子が多かったようで、ネット上ではバラで取引されているのをよく見ます。しかし作品による偏りが多く、一部の作品はダブっているようですが一部の作品は滅多に見られません。この『月世界旅行』は品薄のようでプレミアがついています。


  リンク

 さて本書の登場人物は大砲クラブ会長のインベイ・バービーケーン、その好敵手のニコール大尉、フランス人ミシェル・アルダン、そして大砲クラブの名物男マストンら。この前者三人がトリオを組んで月世界の探検に出発します。(なお本書では姓名の間の「・」が「=」で表記されています。一時「=」で表記する表記法があったのです。)
 ニコール大尉は装甲版の発明者で、大砲クラブにとってはいわば宿命のライバル的存在です。
 そういえば、今村翔吾さんの『塞王の楯』が第166回(2021年)直木賞を受賞しました。これは城の石垣設計職人と鉄砲職人が対決する話で、これもまた矛と盾の対決パターンです。戦争で人類の科学は発展してきたのです。悲しいけどこれ、現実なのよね。

 ヴェルヌが風刺しているように、大砲クラブの面々は軍国主義者の集まりです。
 アメリカの団体を描いた作品として他に『征服者ロビュール』もあります。
 ウェルドン協会の方々は純粋に気球を愛している気球愛好家で、気球を戦争に使おうなんては思っていませんでした。
 しかしロビュールの乗っていた飛行機は立派な戦争兵器になりますね。

20世紀少年少女SFクラブ
 ジュール・ヴェルヌの空飛ぶ戦艦 主人公の名はロビュール?
  https://sfklubo.net/robur/

 ヴェルヌの『月世界旅行』に対して、科学的記述の正確さはよく言及されるところです。
 ヴェルヌは当時の最新の天文学や物理学を活用して本作で月世界旅行をシミュレートしたのです。
 1865年から1870年にかけて、もう既に太陽系の大きさや構成は明らかになっていたようです。

ガリレオ・ガリレイ(1564年~1642年)
ヨハネス・ケプラー(1571年~1630年)
アイザック・ニュートン(1643年~1727年)
ジュール・ヴェルヌ(1828年~1905年)

 バービーケーンら3人は砲弾宇宙船に乗って月の周りを回って観察します。その月世界とは空気も水も、当然生命もない死の世界でした。
 物語としては地球のような環境で月面に上陸して月世界人と遭遇すれば面白いのですが。実際、ウェルズはそういう物語を描きました。

ハーバート・ジョージ・ウェルズ(1866年~1946年)
 『月世界最初の人間』(1901年)

 ヴェルヌの時代、月には生命はいないということは科学的に結論されていたのでしょうか。ともかくヴェルヌは科学に則って淡々と死の世界を描いています。現代から見ても違和感ない描写です。当時の読者から見て、これが最先端の科学に基づく描写だったのです。まあ20世紀の人類が1969年7月20日にアポロ11号のアームストロング船長が月面着陸する映像を見たような状況だったのではないでしょうか。バービーケーン船長、あなた方の観察は人類にとっては偉大な観察です。

 三人は遠くに噴火している火山を見ますが、軌道から外れてよく観察できませんでした。これはなかなかダイナミックな想像です。しかし現在の科学では月の火山活動は20億年前に止まったということになっているようです。
 バービーケーン達は月にもかつては生命がいた、というような月の歴史についての仮説を議論しています。この仮説はどうなんでしょうか。もし本当なら面白いことですね。
 あと、窓を開けるシーンがあるのですがそれはどうなんでしょうか。

    

   


   ★ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション II 地球から月へ 月を回って 上も下もなく
↑新訳!三部作の完訳!決定版です!

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