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その都市に近付いてはいけない!監視され妨害される調査団 砂ばくの秘密都市/サハラ砂漠の秘密


   ★砂ばくの秘密都市 (少年少女ベルヌ科学名作9)
    訳:塩屋太郎 挿絵:未記名 1964年初版/1968年再版

【あらすじ】
 その都市に近付いてはいけない!
 未開のアフリカ奥地に存在するといわれる「ブラックランド」!
 近付いた者は処刑されるという。
 ジェーン・バクストンはバルサック調査団に合流し、兄の死因調査に向かう。
 しかしその調査団は何者かに監視され、妨害されていた。
 使用人はサボタージュし占い師は不吉な未来を予言し馬は殺されてゆく。
 さらに偽の命令書によって護衛隊は偽物に交代し、消えてしまった!
 そして夜中に空から聞こえる謎の轟音!
 彼らは無事故国に戻ることはできるであろうか!!


  

   
【感想】
 今回も学研少年少女ベルヌ科学名作全集版と創元推理文庫版を読み比べてみました。
 学研版は抄訳版ですが、骨子は全て収録されています。
 ベルヌの冗長な文体を見事に刈り取って縮小しています。
 先に縮約版を読んで大まかな流れをつかんでおいて後に完訳版で細部を楽しむのが良いと思います。
 
 前半はアフリカ探検の道中です。
 探検団は何者かに監視され、妨害されています。
 なぜか『ディアトロフ・インシデント』を思い出しました。
「ムー」の記事によると、彼らは夜中に光る物体に襲われていて、写真も残っているようです。

SF KidなWeblog
「11人いた」!ディアトロフ・インシデント 廃墟とクリーチャー
   http://sfkid.seesaa.net/article/437341292.html

『砂漠の秘密都市』でも、探検隊は何者かに監視され、妨害され、夜中に轟音を聞いています。
 そして夜中に轟音と閃光の中、何者かに襲われたところで第一部が終わり、第二部に至るのです。


  
 ヴェルヌが小説で予言した未来の科学技術は実現してきたと言われています。
 この作品でヴェルヌが予言した技術は、砂漠緑化と人工雨。
 果たしてこれらは実現しているでしょうか?
 意外と砂漠緑化とは難しいものなんですね。
 本作品で砂漠緑化を実現させたマルセル・カマレ博士はすごい人です。
 このカマレ博士の大発明を悪用しているのがハリー・キラーことウイリアム・ファーニーです。
 カマレ博士自身はハリー・キラーが行っている悪事には全然気付いていなかったのですね。
 キラーに捕まった調査団一行から助けを求められ、真実を知らされたカマレ博士は良心の呵責にさいなまれ、少しづつおかしくなっていきます。
 科学者は自分の研究がどういう風に利用されているのかまで把握していないといけないんですね。
 科学者・専門家のモラルという問題です。
 これは今の世でも言えることですね。
 例えば、原発や核兵器など。感染症問題でもクローズアップされています。
 今の世はサブカルチャーも影響力があるので、サブカルの論客もモラルが求められています。
(唯々諾々とお上の意見に付和雷同しているような連中は軽蔑です。)


   
 主人公一行は極悪人ハリー・キラーに囚われて絶体絶命!彼らは果たして無事帰還することはできるか!?
……と思ったら、ブラックランドのもう一人のリーダー・カマレ博士に偶然会うことができて意外と簡単に窮地を抜けることができました。
 カマレ博士がいい人で良かった。
 カマレ博士の支配する工場は堅固でハリー・キラーの部下を寄せ付けず、1カ月もの間ゆるゆると籠城戦が続きます。
ひみつの科学都市/インド王妃の遺産』でも思ったのですが、戦闘シーンがあっけなく終わり、正義が勝つことになります。
 ヴェルヌは設定と冒険に妙があって、戦闘シーンに期待してはいけません。
 それでもし、カマレ博士に会うことができなかったら、もしくはカマレ博士に良心がなかったら、結末はどうなっていたのか妄想してみます。
 おそらく調査団の大半は犠牲になって第二部は終了します。
 例えばトンガネだけが生き残って生還して助けを求めるとか。
 全滅前に出した手紙が何らかの方法でしかるべき人物に伝わるとか(グラント船長パターン)。
 バルサック調査団消失事件を調査せよ!ということで第三部が始まる……!!?

 ヴェルヌの小説は国際色豊かで、色々な国籍の人物が登場します。
 本作品もフランス人のアメデー・フロランスやバルサックが主要人物なのですが、真の主人公・ヒロインとしてジェーン・バクストンさんが登場します。この方はイギリス人です。
 ジェーン一家の家庭問題が本作品の背景にあります。
 ジェーン一家の複雑な過程関係は『嵐が丘』を思い出させます。
(高校時代に一度読んだきりでほとんど覚えていないのですが。)
 ヴェルヌは愛国者で小説の登場人物はフランス人が多いのですが、なぜか外国人も多く登場します。
アフリカ横断飛行』の主人公トリオはイギリス人でした。
 創元推理文庫版の解説で
「第一作でアフリカ大陸を空から横断したヴェルヌは、最後の作品でアフリカに戻ってきたわけです。」
と書かれています。
 主人公もイギリス人から始まり、イギリス人で終わったということでしょうか。
 なお、創元推理文庫版の解説を書かれている石川布美さんは訳者・石川湧さんの娘さんのようです。

 ところで、抄訳版と創元版を読み比べてみて、冒頭の銀行強盗のシーンのちょっとした違いに気付きました。
 銀行にやって来る現金輸送車が、創元版では馬車になっているのですが、学研版では自動車になっているのです。
 本作品の発行当時(1905年)はまだ現金は馬車で輸送していたんですね。
(調べると、フォードが車を製造して普及していくのは1900年前後のようです。)
 自動車の現金輸送車は『ルパン三世』等の映像作品でよく登場するのですが、馬車の現金輸送車とは珍しいですね。
 子ども達には馬車の現金輸送車とはイメージしにくいので自動車に変更したのでしょうか。
 よく考えるとこの物語ではバルサック探検隊は車を使わずに馬と人力で探検しています。
 車が普及していたんなら車を使っているはずですね。
(しかし後半登場するブラックランドではカマレ博士が発明した飛行機を使っているという。)

 ところで、フランスが派遣したアフリカ調査団の団長の名前がバルサックとボードリエールとは著名な作家と哲学者みたいで面白いと思ったのですが、バルザックとボードリヤールでした。フランスの人名は難しい。

ジュール・ヴェルヌ(1828年2月8日 – 1905年3月24日)
オノレ・ド・バルザック(1799年5月20日 – 1850年8月18日)
ジャン・ボードリヤール(1929年7月27日 – 2007年3月6日)


 
 なお、本巻に関しては挿絵画家の名前が記されていません。
 口絵扉の右下に「maco」のサインがありますが、これで分かる方には分かるのでしょうか。

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