ナチスの原爆開発を阻止せよ!【世界を救った決死隊】ノルウェー抵抗運動秘史
『悪魔の発明』に同時収録された読み物の紹介・感想です。
火薬から原子力へ 工藤昌男(文)
タイトル通り、火薬から原子力への歴史を写真と文で描く30ページ近い記事。
原子力については、
「石炭や石油より高コストなので現在はまだ普及していません」
と書かれています。
そして、いずれ低コストになって原子力が石炭・石油を追い越す日が来るでしょう、とも書かれています。
果たしてそうなったでしょうか?
コストの高低については、どこまでを計算に入れるかで変わってきます。数字のトリックです。原子力ムラは原発は低コストだと言っていますが、どうでしょうか?
死の灰や核分裂燃料の埋蔵量のことを考えると、いっそ核融合の方が可能性があるのではないか、とも書かれています。1995年の原子力平和利用会議においてインドの物理学者バーバの発言が紹介されています。
「あと20年のうちに核融合エネルギーを利用できるようになるだろう」
そううまくはいかなかったがそれでも1964年にはニューヨークの世界博覧会には
「ともかく核融合反応装置といわれるものが出品されました」
ということです。それからどうなったのですか?
当時は人類と科学の未来に対して最も希望が持てる時代だったのかもしれませんね。
私の小中学生時代は物語や歴史の本ばかり読んでいて、理系の本は興味ありませんでした。だから理系の知識には弱かった。
本書のように物語に科学記事を付属してくれていたら理系の知識も付いて良かったと思います。本書の編集方針は素晴らしいと思います。特に私は『十五少年漂流記』『海底二万里』の作者の他の作品が読みたくて仕方なかったのです。本全集を小中学生時代に読んでおきたかったですね。
[wikipedia:核融合反応]
[wikipedia:核融合エネルギー]
世界を救った決死隊
アインシュタイン博士の「相対性理論」以降、原子に関する研究が進み、原子力だとか核分裂に基づく「原子爆弾」という概念が理論上可能となりました。
第二次世界大戦では連合国側も枢軸国側も原子爆弾の開発にしのぎを削り、先に開発した方が勝つという状況でした。
ドイツやイタリアではユダヤ人が迫害され、アメリカに亡命したアインシュタイン博士やエンリコ・フェルミ博士らが原子爆弾開発に活躍したのです。
しかしドイツでも原爆開発は進行していて、ドイツ占領下のノルウェーでは原爆開発に必要な「重水」の製造が行われていました。
ナチスの原爆開発を阻止するため、イギリスに亡命していたノルウェー人義勇兵からなる重水工場爆破特別工作隊が結成されました。本作はその特別工作隊の記録です。
1942年3月、工作隊員のアイナールがドイツの監視をくぐって密かにノルウェーに上陸します。山中に隠れながら工場周辺を調査し、暗号でイギリス本土に調査結果を送信。後続のツバメ隊やガンナーサイド隊と合流し工場爆破に向かいます。その間、1年近く。実行まで敵地の山の中で生活し、調査し、イギリスに調査結果を報告していたわけです。まるでスパイ映画のようです。しかしこれはフィクションではありません。現実にあったことなのです。戦争はフィクションを超えています。
この事件は映像や本にもなっているようです。しかし日本ではあまり知られていないのではないでしょうか。戦争の歴史や核兵器開発の歴史に詳しい人ならよく知っているかもしれませんが。
こういった知る人ぞ知るようなマニアックな歴史事項を収録するとは、本書の編集方針は秀逸です。
本作品ではそういった歴史事項に加え、原子爆弾の原理や重水やウラニウム235を使う重水型原爆の原理やフェルミ博士が主導したウラニウム238を使うプルトニウム型原爆の原理まで解説されています。
当時のSF好きな小学生はこんなことまで知っていたことになります。すごいですね。当時の小学生に勝てますか?私も非常に勉強になりました。(2023.05.07)
[wikipedia:ノルスク・ハイドロ重水工場破壊工作]
[wikipedia:テレマークの要塞]
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