【フランケンシュタイン】の主題による変奏曲 その2
前回、メアリ・シェリー『フランケンシュタイン』の子ども向け翻訳について見てみました。
20世紀少年少女SFクラブ
【フランケンシュタイン】の主題による変奏曲
https://sfklubo.net/frankenstein/
前回見た版は比較的原作に忠実に訳されていました。
今回紹介するのは、訳者が原作を離れて比較的自由に演出された版であります。
高木彬光演出『恐怖の人造人間』偕成社
高木彬光・文 伊藤幾久造・絵 1951年
https://bookmeter.com/books/16462957
https://bookmeter.com/books/2391733
探偵小説界の大御所・高木彬光が子どもたちのために『フランケンシュタイン』を翻訳した天下の奇書であります!
「時代的へだたりや、幻想的なむずかしさもあるので、多少はぶいたり、おぎなったりして少年少女諸君に読みやすく書きあらためました」
ということです。ぶっちゃけて言うと、「原作は高尚過ぎるので少年少女諸君が楽しめるようにエンタメに徹して書き直しました」ということなのです。
何せモンスターもビクトル・フランケンシュタインもエリザベートも死なない結末なんですから。(それにしては他の登場人物の扱いはいささか気の毒ですが)
コルネリウス・アグリッパ本人だと称するイゴールなる怪人物が主人公ビクトルにつきまとい、ワルトマン教授とビクトルが協力してモンスターを誕生させるのであります。
その後もイゴールの脳移植手術が行われるは、イゴールとビクトルが協力して女性の人造人間ゴルゴンを完成させるは、そのゴルゴンとモンスターが死闘を繰り広げるは、ビクトルの親友クレバルがモンスター退治に乗り出すはと、筆が滑ってもとい筆が乗って暴走気味のエンタメ要素てんこ盛りです。まるで「少年少女映画劇場」で上映されるような映画の類いです。
シェイクスピアやワーグナーの劇も原作通り演じられているのではなく、演出家によって色々な演出がなされます。
また、小説の映画化作品も原作とは違うストーリーになることがほとんどです。
ということで、本書は御大・高木彬光師匠が子ども達のために演出・監督した映画化作品のノベライズ版と思って読めば楽しめます。
名作文学を硬直化して考えることはありません。もっと自由にのびのびと楽しめばいいのです。本書は自由にのびのびと文学作品を楽しむことを教えてくれます。
フランケンシュタイン 痛快世界の冒険文学 (3)
山中恒・文 高橋常政・絵 1997年
https://booklog.jp/item/1/4062680033
https://bookmeter.com/books/68782
中学生のミツヒロは電車の中で偶然岡村青年と知り合い、前世催眠を受けることになる。
ミツヒロが催眠中に話した前世の記憶は、何とフランケンシュタインが創造した「モンスター」だったんだよ!!な……、何だってえ~~~~~~!!!
録画テープは途中で途切れ、続きを知りたくなったミツヒロは図書館で『フランケンシュタイン』を借りてきて読む。
一日がかりで読破したミツヒロは自分の人間関係について考える。
家出した母親の本棚を見ていたミツヒロは、そこで衝撃的な事実を発見する!そこで明らかとなった前世催眠の真相とは……!!!
原作の翻訳は忠実なのですが、その前後に日本の少年の物語が入っています。
原作は
ウォルトンーフランケンシュタインーモンスター
という入れ子構造になっているのですが、本作品はその上にまた
ミツヒロの前世催眠の語りーミツヒロの行動の同時進行(三人称体)
という二つの構造が入っています。
なかなか面白い構成だと思います。
ただ、私としては最後に謎を引っ張るための語りが余りにも技巧的過ぎる・無理があるとも思うのですが、皆様はどう思われるでしょうか。
ともかく、古典文学の翻訳として面白い演出だと思います。
ところで本作には『フランケンシュタイン』の翻訳史に関して、日露戦争当時の真部鉄泉や小松原鉄泉・光次郎の話が出てきます。
彼らに関しては本作オリジナルの逸話なんでしょうか。
現実と非現実の境界があやふやで混然一体となった構造は原作『フランケンシュタイン』の構造とよく似合っています。
本書には巻末に風間賢二さんの解説が収録されています。
角川文庫(山本政喜訳版)の1994年の改版にも風間さんの解説があります。
同じ方が書いているだけあって、共通する記述も多い。
分かりやすい読みやすい文章で深い内容のことが書かれています。
児童書なのですが、本文から解説までなかなか充実した一冊ではないでしょうか。
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