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親切な砂型生命体 砂のあした 小沢正


創作子どもSF全集2
砂のあした
 小沢正・著/井上洋介・絵
  国土社 (1969/2/25)
 
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● ● ● ● ●  あらすじ  ● ● ● ● ●
 1968年。子どもの誘拐事件が多発し、サハラ砂漠で水爆を積んだ飛行機が墜落した頃。
 小学生のススムはある日、公園の砂場にネコの砂を取りに行く。変な子に注意されるが構わずに砂を持って帰る。
 次の日の朝にススムは、砂が分裂して増えていることに気付く。
 学校に行くと昨日現れた変な子が転入して来てクラスメイトになっていた。公園管理人の子だという。
 ススムは公園管理事務所の秘密の地下室の怪しい機械を突き止める。
 そして事態は急展開を迎えるのであった!!
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●

 これは不思議な話です。水爆の爆発のために砂が分裂して増えるようになり、地球上が砂で埋め尽くされるというのです。
『ゴジラ』を始め、核兵器の放射能で生物が化け物化するという設定は物語でよくある話ですが、砂が増えるとは!
 そもそも砂は生物ではなくて鉱物ですから、増えるはずはない。
 科学的に考えると非常におかしな設定なのですが、そういうあり得ない悪夢のような設定の世界観なのです。
 ただ、「土」が増えるというのは科学的にあり得そう。「土」は鉱物の他に有機物の残骸や微生物から成り立っているようですから、微生物が異常に増えるというのは科学的にあり得ます。
 科学的には炭素型生物の他にケイ素型生物というのも考えられるようだから、本作品の場合、ケイ素型生物が増殖したのではないでしょうか?

ケイ素生物
 
珪素生物
  
……と、一応まず科学的に突っ込んでみました。
 しかし、何で増える砂が世界に広まったのか、よく考えるとその過程も不思議です。
 サハラ砂漠で発生した異常な砂が気付かれずに何で唐突に日本の公園の砂場にあったのか?
 砂が海を越えてきたのか?
 砂田君親子が持ってきたんではありませんよ。砂田君親子の目的は砂を運んでくるのではなく、人間の子どもを助けることですよ。
 また、砂が増えていくと気付いた人類はそのままなすがままになっていたのでしょうか。色々と対策を立てたはずですし、それに関するドラマがあったはずです。
 本書に描かれていない時間軸に起こったはずの出来事を想像してみるのも面白いでしょう。

 この物語に描かれる未来の地球の描写は、北野勇作『どろんころんど』を思わせます。
 
落語風・哲学するSF!どろんころんど 北野勇作
  https://sfklubo.net/kotarondo/

『どろんころんど』の未来世界は、どろで埋め尽くされた世界です。
 その世界の住人である人間を模したロボット「ヒトデナシ」が人間社会を維持・復活させようと奮闘しています。
 泥だけあって、砂の世界よりウェットな設定です。
 北野勇作さんの小説では他にも泥の世界を舞台としている作品があるようです。
 もしかして北野さんも子ども時代に『砂のあした』を読んで影響を受けたのではないでしょうか。

 しかし本作で描かれる未来感は悲観的です。
 国土社の創作子どもSF全集の前半第一期(10巻まで)は1969年から1970年にかけて発行されたようです。
 大阪万博が開催されたのは1970年。日本人が未来や科学の発展に自信と希望を持っていた時代なのではないでしょうか。
 創作子どもSF全集の巻末目録にもこんなキャチコピーが描かれています。
 
「なぞにみちた宇宙時代の、夢あふれる冒険の物語」
 
 さぞや希望にあふれた未来世界の楽しい物語が描かれているのかと思えば、こんな暗い物語になってしまいました。
 作家という方は独特の感性・感受性を持っておられるのですね。
 当時の浮ついた上辺には見られない微妙な歪みや暗黒面をキャッチして警告を発していたわけです。
 創作子どもSF全集には、キャッチコピーとは反対の、歪みを反映した作品が多かったように思います。
   
消えた五人の小学生
 戦争で滅びゆく地球を離れて戦争のない文明の星の後継者となる子ども達を描く

ぼくのまっかな丸木舟
 地上に人が住めなくなると予言したマッドサイエンティストが子どもを水棲人間に改造する

だけどぼくは海を見た
 なぜか地球が水没する
 
日本子ども遊撃隊
 地球が宇宙人に支配されて子ども達が絶望的な反撃を開始する

(番外)ピカピカのぎろちょん
 言論弾圧・ネット工作との戦い?
  
 本作品も科学・未来万歳!となるのではなく、科学文明の影の部分に焦点を当てて警鐘を発している系譜の作品でしょう。

 さて、本書の主人公であり語り手でもあるススム君は砂田君から説明を受け、未来社会で砂人間として生きることを選びます。
消えた五人の小学生』では、地球を脱出して宇宙で生きることを選んだ子どもたちを地球に残る子ども達の視点から描いていましたが、本作品では家族も現在の地球も捨てて未来社会で生きる子どもが描かれています。
 砂に埋もれて死ぬよりも未来で砂人間になることを選んだということでしょう。
 しかし、その選択で良かったのでしょうか。一晩よく考えるとまた違った選択になったのではないでしょうか。
「ファイナルアンサー?」
と問い詰めたいところです。
 読書会の観点から見ると、ここで色々と議論することができるのではないでしょうか。
 確かに当事者となると頭に血が上ってしまってよく考えることができません。
 しかし、当事者を離れて読者として第三者的立場からよく考えてみると、また違った合理的な判断ができるのではないでしょうか。
 例えば、「この地球に残って砂と戦い、人類を守る!」という風な。
 確かに砂田君の時間軸では人類は砂に負けてしまいました。
 しかし、ススム君は砂田君から未来からの警告を受け取りました。
 ここで信頼できる大人に話を持っていけば、未来を変えることができるかもしれませんよ。
 一般的なSFジュブナイルならそういう展開になっていたかもしれませんね。
 
本書を読むと今後の人生がもっと楽しくなる!
「いつかは俺もSFジュヴナイルの主人公だ!」症候群なんだよ~~~っ!
見えないものの影 小松左京
 http://sfclub.sakura.ne.jp/sf10.html


 
 そして、残されたススム君の両親のその後はどうなるのでしょうか。
 父親はススム君を精神の病気だと思って知り合いの医師に相談に行っていました。
 ススム君が未来に行くというのは、母親しか知りません。
 ススム君がいなくなった顛末を母親が父親に話して、父親はどう思うでしょうか。
 それにしても、ススム君の名前は暗示的です。大局的に考えて「進んでいく」のです。

 さて最後に、砂田君達はどういう生命体なのか、そしてどうして人間を助けようとするのか、という問題について検討してみます。
 砂田君達は人間体と砂の間を自由に変えることができる砂型生命体のようです。
 まあ言えば「粘菌」のような生命体なのでしょうか。

 未来の砂の世界でこのような生物がどのように発生したのでしょうか。進化論的に系統樹はどう描けるのでしょうか。
 ヒトが砂の世界に適応してこのようになったと考えるのが一番自然です。
 しかし本作品では、1973年からやってきて死んだ科学者の死体をお手本として人間になった、ということになっています。
 科学者の死体を見る前は人間体にはなれなかったのです。
 だからヒトとは関係ないとも判断できますが、元々はヒトから進化したということを忘れていただけなのかもしれません。
 その一方で、増える砂は砂型生命体なのであるから、進化の過程でこのような生命に進化したということも考えられます。
 ここら辺、色々と議論できそうです。
 そして、なぜ砂田君達はヒトの子ども達を未来に誘拐して助けようとするのでしょうか。
 創作の観点から見ると、単に
「地球は砂に埋もれて滅亡しました」
ではお話にならないから何とか子どもだけでも未来で生き延びる設定にした、ということなのでしょう。
 でもそう言ってしまえば身も蓋もないので、色々と議論する余地があるものです。
 やっぱり砂田君達はヒトの末裔だったのでヒトを助けようとしているのだ、と考えれば座りがいいのではないでしょうか。
 あとはやはり、タイムマシンを発明した科学者とはどういう人だったのでしょうか。
 折角の発明をしていながら1万年後の未来で迷子になって不慮の事故で死んだ偉大な人。

 砂田君達はこの科学者の死体をお手本として人間体に変身しているのだとか。
 細胞レベルで科学者の精神に感応して人間を救おうとしているのでしょうか。
 そう思うと科学者の魂も救われますね。
 優れた作品は全てを描き切らずに読者に想像の余地を残しているものです。
 皆様はどう思われますか。
 本作品は現在読んでも決して古びてはいません。
 多くの方が本作品を再発見して色々と議論してほしいと思います。
 そして、20世紀後半にはこのような児童向け作品が描かれ、子ども達に色々と考えさせ、トラウマを与えていました。
 現在の子ども達はどのような作品を読んでいるのでしょうか。(2021.08.29)

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