ひ孫が聞いたひいじいちゃんの冒険と最期【宇宙パイロット】グレーウィッチ

栄光の宇宙パイロット (冒険ファンタジー名作選(第1期)) – ゲオルギー グレーウィッチ, 赤石沢 貴士, 袋 一平
宇宙パイロット
グレーウィッチ 袋一平・訳 山下勇三・絵
岩崎書店エスエフ世界の名作19 1967年6月
岩崎書店SFこども図書館19 1976年2月
栄光の宇宙パイロット
グレーウィッチ作 袋一平・訳 赤石沢貴士・絵
岩崎書店 冒険ファンタジー名作選16 2004年10月
【あらすじ】
語り手はパーブリク。物語開始時は子どもでした。
パーブリクのひいおじいさんパーウェル・チャルチンは有名な宇宙飛行士です。
パーブリクはおじいさんのチャルチンから宇宙探検の昔話を聞くのが大好きでした。
ある日、ラディ・ブロヒンという夢想家が訪ねてきて、おじいさんのチャルチンに色々な話を吹き込みます。その気になったおじいさんのチャルチンはブロヒンらを連れてりゅう座の赤外星の探検に出かけて行きました。
しかし予定だった30年が過ぎても探検隊の消息はありません。
その間にパーブリクは大人になって鳥類研究所の飼育技官として働き、子どもも生まれていました。
そんなある日、突然ラディ・ブロヒンが訪ねて来ました。彼が語ったりゅう座探検隊の物語は……。
【感想:ひ孫が聞いたひいじいちゃんの冒険と最後】
物語のメインの出来事はやはりパーウェル・チャルチン率いるりゅう座赤外星探検隊でしょう。
普通ならこの探検隊の冒険をリアルタイムで描いていくところです。
同じロシアの作品ではエフレーモフ『アンドロメダ星雲』という作品がありますし、
同じSFこども図書館シリーズでは『黒い宇宙船』『異星人ノーチラス』などがあります。
ところが本作品では探検隊の冒険をリアルタイムでは描きません。
主人公のひ孫のパーブリクが語り手となり、彼の視点で描かれています。
彼は宇宙への冒険には出発せず、地球に残ってひいじいちゃんの帰還を30年以上待ち続けます。
やがて探検隊に参加していたブロヒンが帰還し、彼からひいじいちゃんの冒険と最期を伝え聞くのです。
一見したところ、消極的な形式かと思います。
しかし読んでみると、これがなかなかよくできた印象的な語りの形式だと思いました。
物語開始当時、語り手のパーブリクは想定されるであろう本書の読者である子ども達と同じような年齢の子どもです。
ところが行きと帰りに14年、目的地での調査に約1年の探検隊の帰還を待っている間に語り手は大人になって仕事をして子どもができています。時間の経過が実感できます。子ども達にとっては宇宙での冒険よりも驚くべき変化かもしれません。この、待っている膨大な時間がこの物語のもう一つの大きなテーマであります。
6名の探検隊が交代で冷却睡眠するという地味だけど重要な事項も詳しく描かれています。
そして訪れた目的地である赤外星は、海で覆われて陸地のない惑星でした。
地中から熱を発するので海の底に近付くほど生物が多彩になるという不思議な星。
詳しく調査したいのですが燃料の消費が激しく、余裕がない状態。
なぜか遠隔の映像装置もないということで、チャルチン隊長は自らが潜水球に乗って見たことを報告することを決意します。
他の隊員が止めるのを聞かず強引に海中に潜ったチャルチン隊長が報告する光景は、不思議で素晴らしいものでした。
やがて水圧に潜水球が耐えられなくなり、ひびが入ります。水圧に押しつぶされる寸前、チャルチン隊長は信じられないものを発見します。
「海のそこに建物がある。町だ。とおりはあかるくしょうめいされている。まるいやね。球。うかぶタワー。あっちにも、こっちにも、タワーがみえる。たくさん……すると、これは、たぶん……」
果たしてチャルチン隊長が見たのは幻だったのでしょうか?それとも、現実?
読者の子ども達は語り手のパーブリクと同じ立場でブロヒンの語る冒険談、そしてチャルチン隊長の報告を聞くのです。
偉大な宇宙パイロットであるパーウェル・チャルチンは不思議な未知の世界を見、報告して亡くなりました。
そのひ孫がその意志を継ぐというのなら普通の物語のパターンです。
しかし本作品ではひ孫のパーブリクは鳥類研究所の飼育技官であり、宇宙パイロットを継ぐ気はなさそうです。チャルチン隊長の意志を継ぐのはラディ・ブロヒンのようです。
今思えばこれも現実に近い設定です。
私達は子どもの頃、宇宙探検の物語を読んで、将来は宇宙パイロットになりたいと思ったものです。
ところが大人になると、そんな夢はあきらめて現実に直面している仕事が第一となるのです。
子どもの頃の夢を忘れずに追い続けるのは、ラディ・ブロヒンのような夢想家の人なのです。
なお、本作品では宇宙探検隊は赤外星(ラジオ星)の調査に向かいます。描かれているように恒星ではなく惑星のようです。しかし私は宇宙の用語に詳しくないので、赤外星(ラジオ星)についてよく分かりません。本作品で描かれたような惑星は科学的にあり得るのでしょうか。
本書の巻末には訳者・袋一平さんによる「作者とその作品について」が掲載されています。
作者ゲオルギー・ヨシフォウィチ・グレーウィッチは好奇心が強くアイディアマンだったようです。
本作品に登場するラディ・ブロヒンのようなタイプだったのではないでしょうか。
そして袋さんはグレーウィッチの作品を色々と紹介します。当時執筆中の『すべては原子から』という作品にも言及されています。つまりグレーウィッチは1917年生まれで本書発行時には新作執筆中の現役の作家であり、訳者の袋さんはリアルタイムでその情勢を把握されていたのです。(2025.03.22)
(なお、アイキャッチ画像は トムズボックス様 から拝借しました)
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