創作子どもミステリー小説【わたしのロッポ先生】立花広紀
★わたしのロッポ先生
立花広紀・作 川村コウイチ・絵 文芸社 2007年
★ ☆ ★ ☆ あらすじ ★ ☆ ★ ☆彡
警察官夫婦の一人娘・ファジー・テイルは大きなお屋敷で何不自由なく暮らしていました!
ところがお母さんのジーン・テイルが以前逮捕した凶悪犯のドックが脱獄したのであります!
執念深く復讐を狙うドックから逃れるため、ジーンとファジーの母娘は田舎の貧民街に引っ越したのでありました!
その引っ越し先でファジーは今まで知らなかった世界を知り、見聞を広めていくのであります!
ある日ファジーはロッポ先生という引退した年寄りの医師と知り合います。ファジーはこのロッポ先生から自然の仕組みを教わり、本を借り、物語の描き方を教えてもらうのでした!
田舎の生活で伸び伸びと暮らしていたファジーですが、やがてドックとダックの兄弟の魔の影が忍び寄って来るのでした!果たしてファジーは凶悪兄弟から逃れることができるのでありましょうか!!!
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆彡
前回、『ハチュウ類人間』を読みました。
人類発祥以前の謎の高度な南極文明!?
【ハチュウ類人間】立花広紀
https://sfklubo.net/reptilia_homo/
その際、作者の立花広紀さんがエスぺランチストだということを知り、他にどんな作品を描いているのだろうかと興味が湧いて本作品を図書館で借りてみたのです。
正直言ってタイトルも本の紹介文もあまり面白そうでなく、何となく小学校で見せられた人権教育の教育ドラマ臭を感じて期待していなかったのです。ところがこれが意外な掘り出し物で、非常に面白くよくできた物語だったのでした!
お手伝いさんのいる邸宅で何不自由なく暮らしていたお嬢様のファジーが何で突然田舎の貧民街に引っ越したのか!?両親は離婚したのか!?その謎についてはすぐには明かされず、じわじわと分かって来る仕組みになっています。(ミステリーを読み慣れた人ならすぐに察しているでしょうが)
ファジー家に恨みを持って付け狙ってるドックとダックの凶悪兄弟についても、ちょっとした謎があります(これもミステリーを読み慣れた人なら以下略)。
そんな殺伐としたメインストーリーのサイドストーリーとして、ロッポ先生との交流が描かれます。ロッポ先生はなかなか魅力的な好人物です。凶悪兄弟とのエピソードを省いてファジーとロッポ先生との交流だけを描く教養小説的な名作文学としても良いのではと思うくらい良くできています。
ロッポ先生はファジーを森の奥の崖のそばに立つ丸木小屋に案内してくれます。ここはロッポ先生が先立たれた奥さん・タリアさんと建てた森の中の別荘なのでした。そこにはタリアさんの墓も立っています。
そして小屋の中にはロッポ先生が孫娘(現在は外国に住んでいる)のために買ってあげた本がたくさんありました。ロッポ先生は空想好きなファジーに本を貸してくれ、物語の書き方を教えてくれます。
いやーこれは素晴らしいですね。実は私も子どもの頃は空想好きで読書が好きで裏が白い新聞チラシを集めて駄文を書き連ねていたタイプの人間だったのです。外で遊ぶより家の中で本を読んだり文章を書いてる方が多かったし、今でも山の中のポツンと一軒家に住みたいと思ってるくらいですから、こういうシチュエーションはワクワクします。しかも小説の主人公となったつもりで冒険したいタイプなんだから、続きが気になる展開です。
そしてドック兄弟との因縁はどう進展するのでしょうか……?物語は終盤に大きく展開します。
もし私が本書を子どもの頃に読んでいたとしたら、絶対に確実にお気に入りの本になっていたと思います。
私は『ハチュウ類人間』(1971年)について、いささか類型的な展開だと失礼な評をしました。しかし2007年に発行された本作品は見事なストーリーテリングではないでしょうか。この40年近い時間経過の間に作者も経験を重ね、ロッポ先生や本作執筆時点のファジーと同じ年代になったのだと思います。
ただ一つ、ロッポ先生のセリフに違和感あります。
ロッポ先生は表紙に描かれていますが、私が今まで読んできたマンガや小説ではこんなタイプのキャラは
「わしは~なんじゃ」
といったタイプのおじいちゃん言葉を話すことがお約束になっています。
ところが本作品のロッポ先生は全く普通の言葉で話しているのです。
「わたしは、ロッポと言います。
医者をやっていましたが、もうこの年ですから、いまは、やっておりませんがね」
ここは
「わしは、ロッポじゃ。
医者をやってたんじゃが、もうこの年じゃから、いまはやってないんじゃ」
とでも言ってほしいところです。
「すがたが見えないので、心配しました」
ここは
「すがたが見えないんで心配してたんじゃぞ」
とでも言ってほしいところです。
こういうおじいちゃん言葉は「役割語」と言うそうです。
実は現実の生活ではこんな話し方をしている人はいなくて、マンガや小説の中でのみ使われる「お約束」のコスプレ的表現のようです。それで最近はジェンダーの観点から問題があるとも言われているようです。
エスぺランチストである立花さんが役割語に対して何らかの思惑があってあえてそれを使わなかったとしたら、それはそれで一つの見識です。
しかし、それは別としても、やっぱりロッポ先生のファジーに対する語り方には違和感あります。子どもに話しかけているにしては丁寧過ぎてぎこちない感じがします。お医者さんなら子どもに話しかけるのは得意なはずではないでしょうか。
実はそんな文句を言ってる私自身は子供と話すのは苦手で、うまく話せません。ちょうど本書のロッポ先生のようにぎこちなくなってしまいます。というか老若男女全世代の人間と話すのが苦手なんですが。
それはともかく。
本書は読書好きで空想好きで文章を書くのが好きでおまけに冒険好きな子どもにとっては非常にわくわくできる物語です。子ども達に本を勧める立場にある方には是非とも本書を読んでその楽しさを知った上で子ども達にお勧めして頂きたいものです。
しかし本書のタイトルは今一つ触手が湧かないタイトルですね。確かにロッポ先生は魅力的なキャラで、ロッポ先生の登場するシーンは面白いのですが。
本の内容紹介に至っては売る気あるのかと言いたいくらいつまらないものです。
本書の内容は、ロッポ先生との交流が描かれ、主人公ファジーの人生や執筆に関する成長ストーリーでもあり、最後に社会派的観点も入っています。作者の円熟味を感じられるように色々な要素が詰め込まれた作品ではありますが、やはりメインストーリーは凶悪兄弟との対決であり、エンタメ的・商業的なアピールポイントであると思われます。
だから「創作子どもSF全集」の姉妹編として「創作子どもミステリー全集」があったとして、その中の一冊であったとしたら最適の舞台だったと思うし、多くの子ども達に読まれていたと思います。
その点ではプロデュース戦略がまずかったのではないか、と弱小サイト・泡沫ブログの運営者である私が偉そうに言ってます。私の言うことですから信用してはいけません。
でも本作品が面白いのは本当だと思うので、一度騙されたと思って読んでみて下さい。
(2022.12.14)
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