ソレマンの空間艇 石川英輔


   ★ソレマンの空間艇(新版)

【あらすじ】
 浅間山に登山に来た文夫くんと物理学助教授の山波先生は円盤型の未確認飛行物体に捕らわれる。
 中で遭遇した人物は地球の先住民・ソレマン人の末裔であった。
 艇長と名乗るその人物は滅亡に瀕したソレマン人を救うために地球に残してきた「ソレマンの頭脳」を探しており、二人にその手伝いを求める。
 協力を誓った二人は艇長と共に宇宙や地球を駆け巡る冒険を開始する!
 
  
【感想:SF作家は空想する!そして結末から新たな物語が始まる!】(ネタバレ注意!)
 
 文夫くんの大冒険!これを読む読者諸君は文夫くんになったつもりでわくわくドキドキの読書体験をすることでしょう。
 この作品は1958年から1959年にかけて『大地底』というタイトルで雑誌『子供の科学』に連載されたもののようです。
 当時は戦争も終わり日本も科学や経済や文化など、復興に励んでいる時期でした。
 そして科学と未来に対する希望と信頼もあったことでしょう。
 そのような時代、SF作家は色々な未来の技術を冒険を想像し執筆していたのです。
 本書でも宇宙時代の様々な未来技術が登場します。
 光速を超えて宇宙旅行する技術「空間転換」さらには一瞬でワープする「宇宙転移」まで。
 これが実現すれば宇宙旅行も夢ではない!
 空間艇のエネルギーは「質量加速装置」によって得られていて、その燃料を得るために金属でできた惑星「金属型惑星」に寄り道します。
 この惑星の表面や地底について見てきたような描写がされていますが、本当のことなのでしょうか。SF作家の空想はすごいですね。
 文夫くん達を誘拐した宇宙人はソレマン人といって、実は地球人の遠縁に当たる種族だったのです。
 38000年前、ソレマン人と人類の祖先は共存していて、人類の祖先はソレマン人を神様のように思っていたといいます。
 しかしソレマン人の身体が弱くなり地球の環境に耐えられなくなったために他の住みやすい惑星に移住したのです。
 ソレマン人はそこで生き永らえていたのですが、再び危機に陥ったために地球に残してきた電子頭脳「ソレマンの頭脳」の教えを乞うために地球に来たのだった。
……何だかすごい発想ですね。
 
 地球人と遠縁の宇宙人の物語というと、私は名高いある本格SFを思い出します。
 その作品の発表は1977年ということですから、本作品の方が先になります。
 その作品というのは……?ネタバレになりますからタイトルは書けません。
 ネタバレ可能な方のみ、リンク先で答え合わせして下さい。
   https://sanshirou.seesaa.net/article/469832322.html
 
 さらに、生物種としての限界を打破するために宇宙人が地球に来たというアイディアについては、『ウルトラQ』のケムール人を思い出します。
『ウルトラQ』第19話「2020年の挑戦」は1966年の放送だからやはり本作品の方が先です。
 
  [wikipedia:ケムール人]
 
 これらの高い評価の作品より先にそのモチーフが描かれていたということで、日本のジュブナイルSFも相当レベルが高かったのです。

 そして同じソレマン人でありながら、艇長の先祖と袂を分かった人々達は別の方向に進化していた……。
と、こちらはHGウェルズです。SFの要素てんこ盛りです。
 そして本作で探求の目標となっている「ソレマンの頭脳」は、ディープラーニングするスーパーコンピューター、「AI」なのでした!
 38000年もの間自己学習し続け、ほとんど超能力といっていいほどの化け物的な能力をマスターしていて、あっという間に強引に物語に決着をつけてしまいます。
 1958年の時点でジュブナイルSFにこんなすごい発想の数々を盛り込んだこの作品はすごいものなんですが、本当の物語は本作品の結末から始まるのではないでしょうか。
 ソレマン人の未来技術でもって宇宙探検をし、地底のソレマン遺跡でソレマン文明の一端を知った文夫くんと山波助教授は「ソレマンの頭脳」のスーパー能力によって懐かしい地球の山波先生の研究室の中に戻ってきます。
  

「どうしたんだい。びくびくすることはないよ。もう、宇宙と地底の旅行は終わったんだぞ。きみは、世界一の冒険家じゃないか。さあ、この部屋から出よう。」
 山波先生と文夫は、世界中をさわがせることをかくごして、研究室の戸を開いた。
///
 
 物語はここで終わります。
 この後、どうなるのでしょうか。
 ニュースに取り上げられて有名になるのでしょうか。
 しかし、人類より遥かに進んだソレマン文明のことが明らかになれば大変なことになりそうで、心配してしまいます。
 それは私が生きることの難しさ・社会の複雑さを知ってしまった大人だからでしょうか。
 まだ社会の複雑さを知らない子どもなら単純に楽しい想像をするのでしょうね。
……と、そんな違いに思いをはせてしまうのも大人の読者ならでは。
 しかしそもそも二人はどの時間軸に戻って来たのでしょうか。
 いくら「空間転換」したとはいえ、時間を巻き戻すタイムスリップは不可能なはずですから、幾らかのズレはあるはずです。
 私としては、荒巻義雄さんの『五万年後の夏休み』パターンが一番しっくりくるのですが。
    http://sfclub.sakura.ne.jp/sf22.htm
  
 さて、先に述べたように本作品は1958年から1959年にかけて『大地底』というタイトルで雑誌『子供の科学』に連載されたものです。
 その後1969年に金の星社 少年少女21世紀のSFの1冊として単行本化されました。
 19年の間に第15版まで版を重ねた、と著者の石川さんが書かれています。
 その後、幸運にも1993年に評論社から「石川英輔ジュブナイル」シリーズの1冊として復刊されました。
 30年前に描かれたジュブナイルSFが復刊されたとは、素晴らしいことです。
 それだけこの作品の内容が先端的で古びていないということです。
 さらに、色々な作家によるSFジュブナイルシリーズの中の1冊というのではなく、石川英輔さんの個人全集というのがもっとすごい。
 それだけ石川英輔さんの作品が全体的に優れていて読者がいるということを表しています。
 
 金の星社版では巻末に【用語注解】2ページと瀬川昌男さんの解説11ページが掲載されています。
 解説は高速度飛行と脳波操縦について書かれています。
 高速度飛行は相対性理論の初歩です。SFジュブナイルの解説を読むと勉強になるのです。
 SFを読んで理系に進んだ子ども達も多いのではないでしょうか。
 評論社版ではそういった巻末付録は削除され、著者・石川英輔さんによる「あとがき」が3ページ書き下ろしされています。
 これはこれで作品の成立過程の裏話が分かり、興味深いものでした。
 本文レイアウトとしては、金の星社版が2段組で本文193ページ、評論社版は1段組で本文224ページ。
 1行当たりの文字数が少ない方が読みやすいような気がします。
 今は段組の本はあまりないのですが、読みやすいのでもっと増えてほしいです。
(私は速読ができないのでレイアウトによって読書スピードが大きく変わります。だからレイアウトに関しては非常に気にするのです)

挿絵については、
金の星社版 装幀:塩崎英一 カバー/表紙:岩淵慶造 挿画:上矢津
 評論社版 加藤直之
 
 挿絵は両書とも、抽象的な描き方。具体的には描かれていないので、読者が想像で補完するというタイプです。

 

  

なお、記事中、金の星社版の表紙画像は
 旧版はこちら から
 新版はこちら から
拝借しました。
  

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