【十五少年漂流記】を大人になった視点から人事・戦略・経済面で分析する【タイトル負け駄文】
今回は『二年間の休暇(十五少年漂流記)』を読みました。
偕成社文庫(完訳版)に本邦初訳とされるヴェルヌによる前書きが収録されています。
それによるとヴェルヌは、子ども達が協力して成長していく様子を描きたかったようです。
本当に少年達の着いた島は自然環境に恵まれ、動植物に恵まれ、運が良かったと思います。
これが『マタンゴ』のような島だったらとても生きていかれなかったと思います。
本作品は色々な方が翻訳しており、登場する動植物も色々と訳されています。
例えば、サービスが乗ろうとする鳥は「ダチョウ」だとか「レア」とか訳されています。
また、ドニファンを襲ってブリアンに殺される動物は「ヒョウ」だとか「ジャガー」と訳されています。ヒョウとジャガーは違う種類なんですね。
また、洞窟拡張の際、向こうの洞窟にいてファンに退治された動物は「ヒョウ」「ジャッカル」「山犬」などと訳されています。
舞台は南半球の島なので我々日本人になじみのない動物が登場するはずなんですが、日本の子ども達に分かりやすいように訳者がイメージしやすい似た動物に変えて訳したのかもしれません。
ヴェルヌは科学的に正確な記述を心掛けた方なので、一応は住んでいそうな動物を描いていると思います。
しかし、池田宣政も「これらの動物が本当に島にいるのかどうか私には分かりません」と突っ込んでおられました。
カバが南半球にはいないのは確かなようです。また、ミルクの木というのは架空のようです。
今回読み直して思ったのは、派閥争いのリアルとゆるさについて。
人が3人寄れば派閥争いが起こるといいます。ヴェルヌも子ども達の派閥争いについて「大人社会の縮図」と書いています。
まあ派閥争いが起こるのは自然だし当然だと思うのですが、多数派であるゴードンやブリアンの態度が大人なので悲劇には至りません。
冬のスケート大会でドニファンとクロスが行方不明になったりウォルストン一味の上陸を知った時にはブリアン達はドニファン達を助けようとします。
諸葛孔明が反抗的な魏延を作戦のついでに焼き殺そうとしたような残酷なことは決してしません。そこがやはり軍記物と文学作品の違いです。
しかしドニファングループは本当に4人でやっていけると思ったのでしょうか。
現在のリサーチ&マーケティングの観点から見て、こののれん分けというか支店出店についてはどうなんでしょうか?
知識のない私ですら、先が見えないように思えます。
船から持ち出した大切な品や人材を2つに分けるのは明らかに無駄です。
少年達の生活維持のために特技を出し合っていたのですが、ゴードンやブリアンという突出したリーダーの他に生活面全般に役立つモコ、料理助手のサービス、大工や技術面のバクスターらが主力メンバーとして活躍しています。
狩猟バカのドニファンと、後はせいぜい罠を作るのがうまいウィルコックスくらいでは早々に行き詰まるのが目に見えています。
それでもし、ウォルストン一味との抗争がなかったとしたら、2つのグループがどうなっていったか想像するのも楽しいことではないでしょうか。
ドニファングループが反省して謝って元の鞘に収まるのがいいのですが、『蠅の王』のような悲劇に至ることも考えられます。
一体、どうなるんでしょうね。
さて、次に島に漂着したウォルストン一味の行動についてです。
彼らは島に着いてから一体何をしていたのでしょうか?
凧を発見するまでは島を探検したようには思えないし。
島に子ども達がいると知ってからの作戦も甘いような気がします。
彼らは一度はフレンチ・デンを襲いますが、ジャックとコスターの二人だけを人質に取って引き上げようとします。
他の子ども達は全員無事のままです。
最近、日本も物騒になってきて時々無差別殺人事件が起こります。そのことと比べると、人質二人を取るだけで後は指一本触れずに帰ろうとしていたウォルストン海賊一味の方が紳士的のような気すらします。
もしここで海賊たちにフレンチ・デンを乗っ取られて籠城されると大変なことになったのではないでしょうか。
そんな幸運が重なって極悪非道の海賊相手に犠牲者を出さずに勝利することができたのですから、まあ都合の良い展開です。
さて、子ども達が無事オークランドに帰ってから、その後アノーベル島(チェアマン島)はどうなったのでしょうか。
『神秘の島』の舞台となった島は崩壊してしまいましたが、こちらの島は健在だから色々と活用や想像の余地があります。
今の日本の考え方からすると、聖地巡礼やリゾート開発の舞台となりそうな気が(ちょっとバブル臭感じます)。
チェアマン島巡りクルーズの旅とか。島に別荘ができたりとか。
実際のところ、現在はどうなってるのでしょうか(ウィキペディアに舞台となった島についての記述があります)。
椎名誠さんが調査に行ったという本も出ているようで、またいつか読もうと思います。
(以下、主なバージョンの翻訳を紹介)
十五少年漂流記 (少年少女ベルヌ科学名作6)
今西祐行 (翻訳) 市川禎男(絵)1964年
26字×18行×2段×156頁
★アマゾンリンク
[wikipedia:今西祐行]
(当時における日本の『十五少年』及びヴェルヌの翻訳事情について解説が充実!)
★十五少年漂流記 (旺文社文庫 510-1)
金子博・訳 瀬島好正・絵 1967年4月20日初版
(日本で最初の完訳版)
ヴェルヌ全集〈第5〉二年間のバカンス 横塚光雄・訳 (1967年) (集英社コンパクト・ブックス)
★集英社文庫ヴェルヌコレクション版 1993年
★改訂版 2009年
[wikipedia:横塚光雄]
(子ども向けながら日本で二番目の完訳版)
二年間の休暇 朝倉剛・訳 太田大八・絵 (福音館古典童話シリーズ) 1968年
(読みやすい文体とレイアウト・原著のイラスト収録・ヴェルヌ自身による前書きも収録)
二年間の休暇―十五少年漂流記 大友徳明・訳 偕成社文庫 1994年
(なお、アイキャッチ画像は こちら から拝借致しました。)