ヴェルヌの知られざる大傑作!【彗星飛行】久米穣
偕成社 世界科学・探偵小説全集17
【彗星飛行】ベルヌ作
久米穣・訳 依光隆・絵 1964年
【あらすじ】
さる年の大晦日、アルジェリア駐屯中のフランス陸軍大尉ヘクター・サーバダックはL未亡人との結婚を巡ってロシアの貴族ワッシリー・ティマシエフ伯爵との翌朝の決闘を約束したのであります!
意気軒高と決闘準備を始めるサーバダック大尉でありましたが、その時、地球は大異変の天変地異に見舞われたのでありました!!
宇宙より飛来したる謎の彗星が地球に激突し、地球の一部が彗星ガリアとなって宇宙空間の飛行を始めたのです!幸か不幸かサーバダック達は彗星ガリアの住人となって宇宙旅行に出発する羽目になったのでした!!
ガリアとなったのは地中海に面する一部の島国!奇しくも彗星ガリアの住人となったサーバダックを始めとした三十数人!彼らの前途に待ち受けるのは食糧不足!木星との衝突の危機!寒さとの戦い!
果たして彼らはこれらの危機を乗り越えられるのでありましょうか!?そして再び地球に戻ることはできるのでありましょうか?!!! /( ^ω^)・・・
激変した世界をサーバダック達は船で探検します。
やがて火山島を発見してそこに住居を定めます。こういうストーリーを読んで私は『十五少年漂流記』や『神秘の島』などで島を探検した後に秘密基地ならぬ住居を建設するエピソードを思い出しました。また、火山島の住居といえば『悪魔の発明』も思い出し、地下を探検するのは『地底旅行』を思い出します。
ヴェルヌ研究会の先生方の解説によると、本作品にはヴェルヌの他の作品の要素が頻出するようです。
(本作品は1877年出版、『十五少年』は1888年出版。無人島での基地建設はヴェルヌ作品に頻出するテーマです)
そしてヴェルヌの作品は、冒険をした主人公一行が元の世界に帰って来るのがパターンとなっています。
本作品も、宇宙で色々な経験をしながら最後には無事地球に戻ってきます。色々あったけどいい思い出やったなあ、というハッピーエンドです。
途中から仲間入りする人物として、パルミリン・ロゼット教授という天文学者がいます。今回の天変地異を最初から予測していて警告を発していた方です。
天文学についてあまり詳しくないサーバダック達にこの方が色々と解説してくれて理論的に説明がつきます。こういうキャラがいると物語に安定感が出ます。
とはいえ、ロゼット教授はそれまでは学問の世界ではあまり報われていなかったようです。
「これまでわしは、先ぱいどころか、後はいからもさんざんばかにされつづけてきた。よし、こんどこそ、やつらをあっといわせてやるとしよう」
なんて情けないこと言っています。これは久米穣先生のアドリブ翻訳なのでしょうか?
ジュール・ヴェルヌの作品は色々ありますが、この作品はあまり知られていないのではないでしょうか。
それもそのはず、久米穣さんが訳した子ども向け縮約が偕成社の「世界科学・探偵小説全集」の一冊として出ているだけのようです。
この本自体は何度も版を重ねて出版部数は多かったはずですが、このシリーズ自体が絶版となったために私も子ども時代に巡り合うことはありませんでした。
私が本書を知ることになったのは、ネットで古い本の情報が入手できるようになってからです。しかしネット上ではプレミアム価格がついて比較的高額で取り引きされていて、気にはなるけどなかなか手が出ない作品でした。
今回、本作品の完訳版が出版されたということです。少年少女向け翻訳版と完訳版の読み比べが趣味の私としては読み比べるいい機会だと思って購入してみました。
地球に彗星が激突して地球の一部が彗星になるとは、なかなかぶっ飛んだ発想です。
もしもこんなことが現実に起これば大惨事ではないでしょうか。
ヴェルヌの作品は科学的に実現可能なことを考証して描かれているようですが、本作品に関しては例外的で、羽目を外してファンタジーの世界に遊んだ番外編ということなのかもしれません。
そういった科学的にあり得るかという議論は抜きにして本作品は楽しいものでした。
私は子ども時代、ヴェルヌの『十五少年漂流記』『海底二万海里』が大好きでした。この二作品が一番好きな作品で、最初は子ども向け翻訳で楽しみ、次に福音館書店から出ていた完訳版に挑戦しました。
もし私が子どもの頃に『彗星飛行』を読んでいたら、多分三番目に好きな作品になっていたと思います。
子ども向け翻訳本で『十五少年漂流記』『海底二万海里』を読んでいて、いつか完訳版を読んでみたい、と思っていた頃を思い出すかのような読書体験でした。
さて、巻末の解説で久米先生はヴェルヌの人生と本作品についてあることないことをアドリブで書かれています。
本作品については出版社の都合で絶版になり、長い間忘れられていたが20世紀になってから英訳されて再発見された、と書かれています。
なるほどだから本作品はあまり知られていなかったのか、と思えば、ヴェルヌ研究会の先生方の解説によると、どうも眉唾の記述のようです。
久米穣先生のお父上の久米元一先生も解説でヴェルヌの過去をオリジナル創作していたりするので、少年少女向け翻訳は物語も作者の人生もアドリブ改変することあるようで信用なりません。
ヴェルヌ『青い怪光線』の原作は何と……!オリジナルの展開が!
https://sfklubo.net/saharo/
https://sfkid.seesaa.net/article/478977933.html
ジュール・ヴェルヌが描いた「株の運用で大儲けする方法」!『黄金の流星』
https://sfklubo.net/ora_meteoro/
https://sfkid.seesaa.net/article/483587248.html
ところで、フランス語の綴りの「サーバダック」を逆に読むと「死んだ人」となるようです。
そのため、ヴェルヌ研究の専門家の間では、昔から本作品は「死後の世界の話」「夢オチ」ではないか、と言われていたそうです。
あれだけ充実していた二年間の宇宙生活が夢オチだったなんて……!?
……ということで、本作品をもっと深く楽しむためには、完訳版との読み比べが必要なのかもしれません。
(2023.07.29)
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